拍手ありがとうございます。 現在拍手お礼は獣化現パロで猫宗様と人間真田さんのお話を掲載中です。 獣化や捏造の苦手な方にはすみません。 コメント等下さった皆様には、サイトで返信させて頂きます。 返信不要の方はレス不要にチェックを入れて下さい。 『野良猫に原チャリを占拠されちゃった』 22 おういいぜ、と気軽に応えた政宗は、ぐねぐねと寝転がり、しっぽをぱたぱたとゆらめかせ、耳も時折ぴぴぴ、と細かく振ったりして、機嫌がよさそうだった。 政宗に、一房長い髪の毛の先をあぐあぐ、とされながら、幸村は、政宗殿のお話をもっと聞きたいのですが、と言い募る。 彼の声で、彼の事を、たくさん、たくさん、知りたい。聞きたい。 永遠に、忘れぬように。 そんな切実な幸村の気持ちなどに、思いも及ばぬ政宗は、All right.と一つ目を輝かせ、俺の話聞かせてやるぜ、と言い、寝転がり、幸村の毛先にじゃれつきながら話し始める。 最近猫の本能が強くなってきているお陰か、ふさふさと揺れる幸村の長い毛が気になってしょうがないのだ。 じゃれても怒られないし、ちょっと遊ぶには良いおもちゃだった。 幸村は幸村で、そんな政宗に可愛らしいとは思えど、嫌がる素振りもなく、時々行き過ぎた政宗が間違えて背中に爪を立てても、さほど痛くござらん、と甘受し、ただ、じゃれ終わったあとには毛先がぱりぱりになって固まっているのが、ちょっとな……と思うぐらいだった。 だから、今も、幸村は政宗の好きにさせているし、政宗も好きにしている。 これが、いつもの二人の日常の光景なのだ。 俺の話かァ、と言いながら、政宗はうーんと唸ると、俺な、アンタに、名前もらったの、うれしかったんだ、と言い始めた。 俺、野良猫だろ、店は、売る猫に名前をつけちゃいけないから、だから、ずっと名前がなくて、子分には、すげぇ、coolな名前やcuteな名前をもらってるヤツとかもいたりして、ちょっと、羨ましかったんだ。 だから、アンタが、あのイカス人間の名前を俺につけたとき、すげぇ、嬉しかったんだぜ。 あの人間のはなしを聞いてるとき、俺もコイツみたいにかっこよくってcoolな猫になりてぇな、と思ったし、死んでからも覚えててもらえるなんて、happyじゃねぇか。 そう思ってあのとき聞いてて、そしたら、アンタが猫の世界にかたりつがれる? 名前にしようって、それって、俺が死んでも猫のみんなが覚えていてくれるってことだろ。俺が思っていたこと、気がついてくれたみたいで、それもよかったし。 同じ右目がないあの人間と一緒の名前なら、人間だって俺のこと、忘れないだろ。 そこで、政宗は起き上がると、幸村に擦り寄ってくる。 彼は、最近、すごく、……猫、のようなのだ。 幸村はすりすりとされながら頬に血が上るのを感じ、少し慌ててしまうが、これも懐いている猫の習性なのだろう、と思って背中を撫でてやる。 んんんん、と喉を鳴らすと、政宗のしっぽも、ぱたん、ぱたん、と床を叩く。 それに、アンタがつけたんだ。 そうしたら、アンタも、俺のこと忘れないだろう? 一番いい人間につけてもらった名前だから、俺も、だいじにする。 幸村はもう、何度したか分からない感動を覚える。 自分が名前をつけたあとから、政宗の態度が軟化したとは思っていたが、彼がこれほど、己に心開いてくれていたとは。 右目の傷と、辛く悲しい生い立ち、そして、過酷な環境の中、強かに生きてきたかの御仁に、政宗を投影し、とても、らしい、名前だと思ったからこそ、政宗にこのお名前は、と聞いたのだ。 そして、それは、はからずも政宗も感じていたことで。 偶然にも二人の気持ちは一致し、政宗はそれを、幸村が自分の心に気付いてくれたようで嬉しかった、と言うのだ。 そして何よりも。 幸村に、自分の名前を忘れて欲しくない、と願ってくれているのだ。 付けられた名を、大事にするから、アンタも大事にしてくれよ、と政宗は拙い言葉の中に言っているのだ。 そんなもの、言われなくとも、と思うが、彼の語る言葉の端々に感じる喜びや、嬉しさを思うと、幸村の心の中に降り積もる、あの、鳥の羽のようにふわふわとしたものが、幾重にも幾重にもさらに降り積もっていくようで。 政宗殿、そなたの事は、お名前だけでなく、お顔も、お姿も、お声も、すべて、覚えております。この幸村、死んでも、忘れは致しませぬ、すべて、すべて、大事に致しましょう、と心からの言葉を政宗に送った。 Really? と政宗は聞いてきて、ええ勿論、と幸村が即答すれば、嬉しそうにぎゅ、とさらに額を擦り付けてきて、アンタ、ほんとうにいい人間だな、と言う。 くるん、としっぽが幸村に巻きついて、アンタのくれたもの、あの青いサンダルも、たからものだぜ、とさらに可愛いことを言うではないか。 名前も、たからもの。 サンダルも、たからもの。 歌うようにそう言うと、かかか、と手で耳のすぐ後ろあたりをかいかい、とするように掻き、ごろん、と横になる。 くあ、と伸びて大欠伸をすると、胡坐をかく幸村の膝に頭を乗せて、目を閉じる。 もう、ねむい、と言い、タオルケットを手で探るようにしていたので、幸村はそれをかけてやる。 色がくすみ、何やら訳の分からないしみと、己の鼻血の薄茶けた色と、流した涙を吸い込んだ、汚いタオルケット。 けれど、これが彼の過ごしてきたこの家での時間の積み重ねであり、彼の全てが詰まっているのだ。 そう思えばその汚れすらも愛しく、そこに丸まりくんくんとして、安心したような顔をする彼がさらに愛しかった。 猫の姿に戻りつつあり、猫としての本能がより顕になってきた今、彼はこうして、今までにはなかったほどに幸村に懐き、擦り寄り、心開いてくれている。 それは、家もなく、頼れる仲間もいなく、寒い冬も暑い夏も、一人で生き抜いてきた彼の、本当は辛かったのだ、と言う無言の訴えのようで、幸村は、一生大切に致します、とまるで、プロポーズするような事を思い、慌てて頭を振る。 この人は、今は人の形でも、いつかは猫の姿に戻ってしまうのだ。それなのに、こんな事を思っても、と思うが、きっと俺は政宗殿を心の永遠の伴侶として生きていくのだろうな、とも思う。 こんなに心惹かれて、慈しみたく、愛しく、切なくなるものの存在を、政宗以外に幸村は知らないのだ。 俺は人に恋したこともなかったが、初めての恋が猫とは、俺も些かおかしいのやもしれん、などと暢気に考え笑いが起こる。 世の中では、俺のようなものを、変態とでも言うのだろうか。 笑いが渦巻く頭で自嘲とも自虐とも取れるような事を考える。 だがそう言うのなら言えばよい。 この人の魅力に比べれば、世間の目など。 俺は世界一の果報者だ。 こんなに素晴らしい人に出会えたのだからな。 こんなに歳若くして、運命の相手に出会ったのだ。 そう思えば、俺は、心強く生きていける。 この先も。 ずっと。 膝の上の政宗の頭がかくん、と落ちたのを手で押さえ、幸村は抱きかかえてベッドに運んでやる。 初めて、彼を抱きかかえたとき、それはそれは物凄い勢いで蹴られたものだ。爪のあとが幾筋も残り、しばらくは風呂に入ればぴりりと痛み、食器を洗えばひりひりとし、学校へ行けばお前その手はどうしたんだ、と言われ、ばつの悪い思いをした。 けれど、今、彼は安心しきった顔をして、己の腕の中、こうして安らかに寝息をたてている。 あの日感じた体の重みは何倍にもなっているが、このように軽くては、と心配した気持ちが、逆にこの重みによって、薄らぐようで。 このまま、この重みが変わらずにあればよいのに、と思う。 このまま、俺の腕の中で心安らかに過ごしてくれればよいのに、と思う。 この先も。 ずっと、ずっと――。 |
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