THANKS FOR CLAP!
ファウードとの死闘は一瞬で終わり、日常へと変わる。
とはいえ、急に現れたムービースターやアイドルをみんなこぞって取り囲むわ、興奮と安堵で群衆はお祭り状態だわ、デュフォーはいないわで、非日常が終わったことをともに戦った仲間とわかちあう余裕はない。警察が混乱を解消しようと、メガホンで地域ごとに帰宅をと呼びかけている。恵さんとティオは挨拶もそこそこに、ダッシュで退散していった。
ここに現れた時にオレの真後ろにいた水野はというと、ガッシュが出したバオウや、オレがどこで何をしていたのか、などといった気になるであろうことはなにも聞かずに、目元を拭って、おかえりなさい、とだけ言った。隣の仲村が不可解だという顔をしていたが、ふたりとも親に呼ばれ帰路につく。去り際に水野が笑顔で
「また学校でね」
と言ったことが印象的だった。
同時に、意識が首もとにいった。本を持たない右手を喉元にやる。
……ない、んだよな。
目覚めた時にそばにいたリィエンとアリシエにも、オレの首にかかっていたネックレスを知らないかと聞いた。
大切なものあるか、と、リィエンがウォンレイの額当てを大事に両手で包みながら言うものだから、言葉が出てこなかった。探そうかというアリシエに首を振って、そのままコントロールルームへ走った。リーヤとウォンレイのことを一緒に悲しむ時間も、この巨大なファウードの中からおまもりを探し出す時間もないことは、オレが一番良くわかっていた。
はぁ、と息を吐く。ない、のか。
そんな中で、肩を叩かれた。振り向くとサンビームさんだった。
「清麿、手を」
「?」
言われるがままに、喉元にあった手をサンビームさんに向ける。サンビームさんはスラックスのポケットにおもむろに手を入れて、握りこぶしを取り出し、俺の手のひらの上にかざした。
…なんだ?
サンビームさんはゆっくりとこぶしを解く。ころんと手のひらの上に落ちてきたのは、赤いヒモでくくられた、橙色の球体。表面にはスマイルマークが縫われている。
おまもり、だ。
ヒュッと息を呑んで、サンビームさんを見る。サンビームさんは微笑んでいた。
「その反応を見ると、保護したのは正解だったようだ」
「どこでこれを?」
「君の蘇生活動をしている最中に、首から下がっていたのが気になってね。そのままだとなくしてしまうから預かっていたんだ」
「…ありがとうございます」
置かれた手のひらから、あたたかさが全身に伝わる。物理的にあたたかくなっているわけではないのに、身体の緊張が解けていくのがわかった。
そんな様子を見てか、サンビームさんが目を細める。
「大切なものなんだな」
「…はい」
おまもりは多少すすけてはいるが、それほど傷ついてはいなかった。奇跡だと思う。身につけていたオレが死にかけたのに(というか、みんなの反応から見るに、確実に心肺停止しているようだ)、おまもりは比較的キレイだ。よかっ―――
「…しかし清麿、自分をなおざりにしてはだめだ」
サンビームさんが、遮った。
「君が想う大切なものに代わりがないのと同じように、君の代わりはないんだ。意味はわかるな?」
真っ直ぐな目に射抜かれ、言葉がなくなる。手の中にあるおまもりが存在感を増した。…まるでリオウ戦の戦い方まで見抜かれているようだ。
「死んでも守る、では意味がない。清麿がいない未来を、その大切なものが望むかを考えるべきだ」
―――また学校でね。
つい先ほど言われた言葉が、脳裏にこだまする。そう遠くない未来に、学校で出会えると思っているからこそ出てくる言葉。
オレが守りたかった場所は、オレがそこに帰ってくることを望んでいるし、信じているのだ。
…思い返せば、水野はずっとそう言っている。
―――帰ってくるよね?
ハイキングの山中でおまもりを渡された時、水野は確かにそう言った。オレが変な雰囲気だと言って、どこかに行きそうだから、その「どこか」から無事に帰ってきてほしいと、徹夜してまでおまもりを作ったのだ。
望みや信頼なんて話じゃない。あの感情は、祈りにも近い。
…あー。なんか…。
しばらく無言のオレを、サンビームさんはずっと見守っている。そして、なにやら愉快そうに笑った。
「もう少し自分に素直に生きたほうがいいな」
そうしてオレの肩をぽんと叩いたサンビームさんはオレから離れる。その向こうにいるのはナゾナゾ博士だ。
地域住民がだいぶ減った校庭に、帰る手段のない人は集まってほしいと呼びかけていた。……そうか、パートナーは帰る手段がほとんどない。おそらくチャーター機に乗っているアポロもここに寄るだろうから、彼らを頼っていいのだ。
集まってきた人の中には、デュフォーはやはり見られない。校門の方を見る。
デュフォーは、どこに帰ったのだろう。帰る場所があるなら、いいのだが…。
おまもりをシャツの胸ポケットに収めて、オレもナゾナゾ博士へと近寄った。最後のひと仕事だ。
これが終われば、帰りたかった場所が待っているのだから。
大切なもの
金色のガッシュ!!/清麿、サンビーム
ちなみにこのお話を最初に構想したの2012年です…(証拠のツイート)
なんでいまさら拾うかというと、待ち人来る音信ありが書けたからだと言い訳しておきます。
ガッシュ20周年おめでとうございます。私が清鈴に狂って16年か…(アニメおまもり回がスタートでした…)。
拍手ありがとうございました!
お礼はこれのみとなっております。おまけはありません。
とはいえ、急に現れたムービースターやアイドルをみんなこぞって取り囲むわ、興奮と安堵で群衆はお祭り状態だわ、デュフォーはいないわで、非日常が終わったことをともに戦った仲間とわかちあう余裕はない。警察が混乱を解消しようと、メガホンで地域ごとに帰宅をと呼びかけている。恵さんとティオは挨拶もそこそこに、ダッシュで退散していった。
ここに現れた時にオレの真後ろにいた水野はというと、ガッシュが出したバオウや、オレがどこで何をしていたのか、などといった気になるであろうことはなにも聞かずに、目元を拭って、おかえりなさい、とだけ言った。隣の仲村が不可解だという顔をしていたが、ふたりとも親に呼ばれ帰路につく。去り際に水野が笑顔で
「また学校でね」
と言ったことが印象的だった。
同時に、意識が首もとにいった。本を持たない右手を喉元にやる。
……ない、んだよな。
目覚めた時にそばにいたリィエンとアリシエにも、オレの首にかかっていたネックレスを知らないかと聞いた。
大切なものあるか、と、リィエンがウォンレイの額当てを大事に両手で包みながら言うものだから、言葉が出てこなかった。探そうかというアリシエに首を振って、そのままコントロールルームへ走った。リーヤとウォンレイのことを一緒に悲しむ時間も、この巨大なファウードの中からおまもりを探し出す時間もないことは、オレが一番良くわかっていた。
はぁ、と息を吐く。ない、のか。
そんな中で、肩を叩かれた。振り向くとサンビームさんだった。
「清麿、手を」
「?」
言われるがままに、喉元にあった手をサンビームさんに向ける。サンビームさんはスラックスのポケットにおもむろに手を入れて、握りこぶしを取り出し、俺の手のひらの上にかざした。
…なんだ?
サンビームさんはゆっくりとこぶしを解く。ころんと手のひらの上に落ちてきたのは、赤いヒモでくくられた、橙色の球体。表面にはスマイルマークが縫われている。
おまもり、だ。
ヒュッと息を呑んで、サンビームさんを見る。サンビームさんは微笑んでいた。
「その反応を見ると、保護したのは正解だったようだ」
「どこでこれを?」
「君の蘇生活動をしている最中に、首から下がっていたのが気になってね。そのままだとなくしてしまうから預かっていたんだ」
「…ありがとうございます」
置かれた手のひらから、あたたかさが全身に伝わる。物理的にあたたかくなっているわけではないのに、身体の緊張が解けていくのがわかった。
そんな様子を見てか、サンビームさんが目を細める。
「大切なものなんだな」
「…はい」
おまもりは多少すすけてはいるが、それほど傷ついてはいなかった。奇跡だと思う。身につけていたオレが死にかけたのに(というか、みんなの反応から見るに、確実に心肺停止しているようだ)、おまもりは比較的キレイだ。よかっ―――
「…しかし清麿、自分をなおざりにしてはだめだ」
サンビームさんが、遮った。
「君が想う大切なものに代わりがないのと同じように、君の代わりはないんだ。意味はわかるな?」
真っ直ぐな目に射抜かれ、言葉がなくなる。手の中にあるおまもりが存在感を増した。…まるでリオウ戦の戦い方まで見抜かれているようだ。
「死んでも守る、では意味がない。清麿がいない未来を、その大切なものが望むかを考えるべきだ」
―――また学校でね。
つい先ほど言われた言葉が、脳裏にこだまする。そう遠くない未来に、学校で出会えると思っているからこそ出てくる言葉。
オレが守りたかった場所は、オレがそこに帰ってくることを望んでいるし、信じているのだ。
…思い返せば、水野はずっとそう言っている。
―――帰ってくるよね?
ハイキングの山中でおまもりを渡された時、水野は確かにそう言った。オレが変な雰囲気だと言って、どこかに行きそうだから、その「どこか」から無事に帰ってきてほしいと、徹夜してまでおまもりを作ったのだ。
望みや信頼なんて話じゃない。あの感情は、祈りにも近い。
…あー。なんか…。
しばらく無言のオレを、サンビームさんはずっと見守っている。そして、なにやら愉快そうに笑った。
「もう少し自分に素直に生きたほうがいいな」
そうしてオレの肩をぽんと叩いたサンビームさんはオレから離れる。その向こうにいるのはナゾナゾ博士だ。
地域住民がだいぶ減った校庭に、帰る手段のない人は集まってほしいと呼びかけていた。……そうか、パートナーは帰る手段がほとんどない。おそらくチャーター機に乗っているアポロもここに寄るだろうから、彼らを頼っていいのだ。
集まってきた人の中には、デュフォーはやはり見られない。校門の方を見る。
デュフォーは、どこに帰ったのだろう。帰る場所があるなら、いいのだが…。
おまもりをシャツの胸ポケットに収めて、オレもナゾナゾ博士へと近寄った。最後のひと仕事だ。
これが終われば、帰りたかった場所が待っているのだから。
大切なもの
金色のガッシュ!!/清麿、サンビーム
ちなみにこのお話を最初に構想したの2012年です…(証拠のツイート)
なんでいまさら拾うかというと、待ち人来る音信ありが書けたからだと言い訳しておきます。
ガッシュ20周年おめでとうございます。私が清鈴に狂って16年か…(アニメおまもり回がスタートでした…)。
拍手ありがとうございました!
お礼はこれのみとなっております。おまけはありません。