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ほらまた。
ティファはそっとため息を零した。
もうこれで何人目だろう。
通りを歩く女の子たちがクラウドを見て惚けるのは……



昼下がりの街中。
エッジに新しくできたカフェ屋でクラウドとティファはお茶をしていた。
オープンテラスが売りのこのカフェ屋。
通りに面したテラス席はゆったりとした間隔で席が配置されていて、隣の席の人の気配をあまり感じずにくつろげるようになっていた。
最初こそ、ティファもやわらかな日差しや風を感じながら評判通りに心地よい空間でお茶を楽しんでいた。
でも、やはりそこはテラス席。
目の前の通りを歩く人たちの視線を遮ることはできず、結果、ティファは通りを歩く女の子たちがクラウドに注目していることに気づいてしまったのだ。

グラスに入った飴色のアイスティーを一口飲み、ストローで氷をカランと涼やかに鳴らしながらティファは隣に座っているクラウドをそっと見つめた。
通りに視線を投じて、人の流れを眺めているその横顔。
秀でた眉に涼しい目元、通った鼻筋に引き締まった口。
そして精悍でシャープな頬のライン。
どこをとっても端正なその顔立ち。
自分の彼氏が振り返って見られるほどかっこいいんだという優越感よりも、ティファは自分でもよくわからない焦燥感や不安を覚えた。
そしてまた、振り返りたくなるほど人目を引く容姿であることに本人はきっと無自覚であることも心が穏やかにならない要因のひとつ。
だからつい、人の気も知らないで……と面白くない気分になってしまうのだ。
そしてこうしている今も、クラウドは涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。
ティファは思わず、零してしまったため息とともに言ってしまった。
「クラウドは自覚ないよね」
「ん?」
突然そう言われたクラウドはきょとんとした顔をティファに向けた。
そうした顔がさらにティファの機嫌を損ねさせ、拗ねたような口調にさせる。
「自分がどれだけ女の子から注目されてるか、クラウドはわかってない」
これでは単なる八つ当たりだ。
案の定、クラウドはびっくりしたように目を見開いている。
そうした顔を見てしまうと、余計に自分の心の狭さを思い知らされて自己嫌悪に陥った。
しかし一度膨れてしまった頬はそう簡単に戻せなくて、ティファはふいと横を向く。
ややして、クラウドが小さくため息をついたのが聞こえた。
本格的に呆れられたかなと心配になったティファは、後に続くだろうクラウドの言葉を緊張しながら待った。
「その言葉、そっくりそのままティファに返すよ」
「え?」
今度はティファがきょとんとした顔をした。
そんなティファを見て、クラウドはやっぱり……と呆れたような顔。
「そこらの男たちがどれだけティファを見てたと思う?」
言われて目を瞬かせるティファに、クラウドは不機嫌さを隠しもせずに言った。
「この席に着いてから15人の男がティファを見た」
「ええっ?」
ティファ同様、クラウドも心中穏やかじゃない状態だったのだ。

さらさらと風に靡く艷やかな黒髪に透き通るような雪肌。
大きな瞳は宝石のように輝いていて、唇は瑞々しい果実のよう。
そうした整ったパーツはもちろんのこと、姿勢や所作から滲み出る美しさも人目を引いている。
そんな中で特にクラウドを苛つかせたのが、ティファの胸を見て性的な想像をしているであろう視線だった。
そうした不躾な視線からティファを守るために、クラウドは彼女を見る男たちに向けて睨みをきかせていた。
その効果はテキメンで、魔晄仕込みの冷ややかな目でクラウドがガンを飛ばせば、相手は震え上がってすぐに視線を外すほどの脅威を与えていた。
しかしティファから見ると、そうした顔すらもすましたクールな顔と見えていたらしく……

「……」
「……」
少しの沈黙が流れたあと、二人は同時に吹き出した。
「なにやってんだろうな、俺たち」
「ほんとだね」
一緒にいる相手を見るのではなく、関係のない人たちばかりに気を取られていたこと。
それが有用性のないとてもくだらないことだと気づいたのだ。
先とは打って変わってリラックスした表情で二人は笑い合う。
そしてひとしきり笑いあった後、ティファはクラウドを見つめて言った。
「もう、よそ見しないでちゃんと私を見てよね」
拗ねたような口調でそう言うも、その顔は赤い。
彼女なりに精一杯おどけてみせた発言だとわかって、クラウドは苦笑った。
「ティファもな」
そう言ってから、ティファを真似てクラウドも軽口をたたく。
「俺だけを見てたらいい」
なのに、ティファは一瞬にして顔を真っ赤に染めた。
そしてもじもじと恥ずかしそうにしながら俯いてしまう。
そんなリアクションをされると冗談が冗談に聞こえないとクラウドは焦る。
「ちょ、ちょっとティファ、そこは笑うところ」


うららかな午後のテラス席。
無自覚な者同士がする少し恥ずかしいやり取りを見る者はもういなかった。

(2021.08.22)





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