拍手、有り難う御座います(*^ー^)ノ♪



「旧 9月15日 2015」


天に輝く月を見上げる。

今日は、一段と美しい月を見上げながら、氷河は感嘆の息を落とす。

自然が美しいのは極寒の北国にいたときに痛いほど痛感した。
北の大地は頑なに人を拒む。
だが。
春となれば太陽が大地を照らし、湿地が出現する。
恋の季節である。
動物たちは、伴侶を求め、鳴く。
子孫を残すという自然の摂理。
本能。
其処には種の繁栄が約束される。
巡り巡って、自然に回帰していくサイクル。
夏はあっという間に過ぎていく。
秋もそうだ。
冬、この大地は白い悪魔と化す。
凍てついた大地は何者をも寄せ付けない。

強い意志を持って、北の海に沈んだ母。
聖闘士になると誓った遠く幼い自分。
北の大地で修行に励む日々。
幼い相棒。
暖かな村人。
強く優しさに溢れた尊敬する師。
互いに励ましながら、日々競い合った兄弟子。

無くしてしまった、大切な人。

自分を助けるために犠牲になった兄弟子。
自分を導くために其の身を挺して示した我が師。

自然の厳しさを痛感しながら、暮らした日々を思う。

第二の故郷となった其処には、母が眠る海と青春をともにした兄弟子と師と暮らした小さな家がある。

年に数回帰るのみとなった地ではある。

今は第三の故郷に身を置いている。

今、自分は幸せである。

冴え冴えと光り輝く月を見上げながら、氷河は、亡き人を思う。

そして。

人生をともにと誓った好敵手を獲たあの瞬間を思い出す。

其奴は俺をあるがままに自然体でいるのを許した。

――俺は運命に愛されている

何度も呪った自分の辿る道のり。

其処には必ず救いがあった。

――愛された記憶と愛した記憶

そして。

今。

――愛されている

命尽きる、其の日まで――俺は共に歩んでいく。

俺たちは共にあると言った男と共に。



愛している。とは言ったことはない。

愛している。と言われたことはある。

自分はこれからも奴に、愛しているとは言わないだろう。

――種を残すことが出来ない自分。

「おい。いつまで其処にいるつもりだ」

抱きしめられる。

氷河は、月を見上げながらかいなの暖かさが躰にしみ入るのに酔う。

首筋に奴の唇が触れる。

「月が綺麗だ」
「お前の方が綺麗だ」
「言ってろ」
「なあ」
「なんだ」
「温かい紅茶を入れてくれよ」
「珈琲ではないのか」
「ロシアンティーが飲みたい」
「…珍しいな」
「ついでにお前の作ったホットケーキも食べたい」
「…いまか?」
「月がな、ホットケーキにみえるんだ」
「俗物が」
「ふふ。お子さまの間違いだろ」
「いいだろう」

他愛もない会話。

――俺は生きている

与えられるまま、過ごしてきた日々。

今、与えられた時間を共に過ごすのが、心地良い。

そして――

今、自分は自分の意志で大地を踏みしめている。

これからも、其れは変わらない。

「氷河、愛しているぜ」
見つめられ、言葉に詰まる。
「俺はお前など知らない」
すげなく返す。
「知ってるか? お前は俺に惚れているんだ」
奴の揺るぎない言葉。
「そして、俺はお前に惚れている」

目を見て話す奴に、俺は――

「精々、寝首をかかれないようにしろよ」
「愛の告白か?」
「知らん」

踵を返し、部屋へと歩を進める。

確信に満ちた言葉。

母を思う。

――俺が女だったら。

詰まらぬ意地は張らぬのに。

父を思う。

――きっと、俺たちはあなた方と似すぎているんですね。

心の中で呟く。

光り輝く月を見上げる。

いつまでも、この至福の時が続くよう、祈りながら――

――月が、見ている。




2015.10.27

十五夜です。

雨がとうとう降ってきてしまいました。
月を眺めるのが好きな私はお預けを食らってしまい泣いております。



schild しると拝



ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)
あと1000文字。