龍
好きだと思うことに理由はない。
気がついたときには、もう恋に落ちている。
大切だと思っている。
特別に大切にしたいと、願っている。
それなのに、もう二度と失いたくないと、傷つきたくはないと。
俺はお前を遠くにやってしまいたくて仕方がない。
抑えきれない想いの捌け口は、決まっていつも別の女。
逃げるように、俺はお前ではないその女を妖木の精に仕立て上げ、
神に縋るようにその女をかき抱く。
傷つけていることは分かっている。
必死で、俺のために人であることを隠そうとしていることも分かっている。
全て丸ごと受け止めることでしか、俺との仲を繋げないとその女は知っているのだ。
俺はそれを知った上で、今日もその女の世界に逃げ込んでいく。
お前という運命から逃れたいがために。
星
見つけたとき、胸が高鳴ったのを覚えている。
それは警鐘のようでもあった。
これ以上、この気持ちの理由を探ってはいけない。
これ以上、この気持ちに煩わされてはいけない。
昂ぶる気持ちに歯止めをかけようと、誰かが必死に俺の耳元で警鐘を鳴らす。
だが、それ以上に、俺はもう後悔したくないと思ったんだ。
傷つきたくないと、幼い子供のように膝を抱えて蹲っているだけの人生は、
もう送りたくなかった。
あれだけ時間があったのに、どうしてあいつは
あんなに自分を騙し続けることができたのだろう。
騙すのが上手かったわけではけしてない。
単に騙されつづけることを望んでいただけなんだ。
自分に欺かれてつけられる傷なら、甘受できると言い聞かせて。
一体どちらの痛みの方が大きかったのだろう。
逃れようともがいて出来た傷は、永遠に己を蝕み続ける。
胸の高鳴りは、過去の傷の疼きでもあったのだろう。
自分でつけつづけた傷は、自分だけでは癒せない。
俺は選んでいたんだ。
傷だらけの大地の上に羅紗紙一枚で作り出された見せかけの真白い未来ではなく、
過去の傷を癒し、犯した罪を償うための未来を。
でなければ、何度生まれ変わっても俺はお前を捜し求めてしまう。
愛するものに出逢うためではなく、
己の傷を癒したいがために。