<空ヶ池>

この水溜りみたいな池が故郷に繋がっているって?

嘘だろ、そんなん。あるわけない。

追い出されて幾星霜。

ご先祖さんたちは別に恨み言も言わなければ、恋しいと泣くこともなかった。

それもこれも、マッドサイエンティストな集団が自由を与えられちまったんだから仕方ない。

倫理的法規制なんかクソ食らえ。

好奇心を満たして何が悪い?

この謎が解かれるまでは、死んでも死にきれるものか。

そんな少数の奴らでも、月日が経てば増殖する。

気がつけば食糧不足。

実験用の植物の種はあれど、困ったことに種蒔く大地がないときた。

ないならそこら辺の鉄板引っぺがせばいいものを、なんと、引っぺがしたところでこれまた金属だと言うんだから、よくもまぁあたしたちのご先祖さんたちはそんなところで何世紀も生きてきたもんだ。

あたしなんか土を知らなくても土を恋しいと思うけれどね。

それにしても、あたしらを追い出したあとの奴らの消息をだぁれも知らないってのはどうなんだろうね。

当たり前か。文系の科学者は別に追い出されるような研究なんてしないもの。

ここに来た奴らは、みんな自分の世界だけ。友達はミジンコ。

暗いしやっぱ狂ってる。追い出されて当然だよね。

でも、それでも生きていて欲しいと思う人ってのは連鎖的に生まれるものなんだ。

「土を下さい」

地上に降りたいとは言いません。

ただ、種を蒔く土が、あたしたちは欲しいんです。


(『空は君のために鐘を鳴らす』1)





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