拍手お礼・その1


「隣」(円堂×風丸)


 消灯時間だという監督の指示で、廊下の電気が一斉に落とされた。
 非常灯のみに照らされた、そんな薄暗い廊下で、円堂は自分の部屋の扉……の、一つ隣の扉をそっと叩く。
「風丸、いる?」
「ああ」
 応じる声。促されて部屋に入れば、風丸はまだ整ったままのベッドから半身を起こした。
「もう寝てた?」
「いや、まだ起きてた。……円堂は見回りか?」
「ああ。でも風丸の部屋で最後」
 キャプテンも大変だな、と笑ってねぎらってくれた風丸に笑い返して、円堂はベッドの端へと腰を下ろした。
「なあ風丸、何か気がついたこと、ある?」
「そうだな……飛鷹と、それに不動のことが気になると言えば気になるが……それ以外は、今は特にないな」
 顎に手を当て、チームメイトたちにぐるりと思いを巡らせた風丸が首を振る。
「そっか。よかった」
 風丸がそう言うなら、円堂のチームへの配慮に足りない部分はないと思っていいだろう。
 これでキャプテンとしての見回りは完了だ。ほっと息をついた円堂は、しかし風丸の側から動かなかった。
 ……心の中に、上手く言葉にできない不安が渦巻いている。
 今日一日の練習を通じてぐっと勢いを増したその不安を吹き飛ばしたくて、円堂は腰掛けて地面から浮いていた足で、なんとはなしに空を蹴ってみた。
 そんな円堂をじっと見つめ、風丸がふっと笑うように息を吐く。
「久遠監督……か?」
「えっ!?」
 心の奥にまさにその名前を引っ掛けていた円堂は、言い当てた風丸を驚いて見つめ返す。
「どんな人なのかまだよくわからないし、たしかに厳しいけど……オレもあの人は良い監督だと思うぜ」
「風丸……」
 今日の練習で厳しく当たられていた風丸だ。反発しているかもしれないと思っていたのに。
「そりゃ、気に入らないところも、もちろんあるさ。けど……お前が認めた監督なんだしな」
 きっと他の奴も同じこと言うと思うぜ、と笑って、風丸は、ぽん、と円堂の両肩を叩いた。
「……ほら! 迷うなよ、キャプテン? お前がいるからこのチームは一つになるんだってことを忘れるな?」
「あ……!」
 その言葉に、円堂の心の中に立ち込めていた霧がさあっと晴れた気がした。
 キャプテンの顔をしている円堂を、風丸はこうして見抜いてくれる。そんな風丸が円堂のすぐ側にいてくれる。だから、大丈夫。
 ……そう思えたことが嬉しくて、円堂は肩に置かれた腕を引き寄せて、風丸をぎゅっと抱きしめた。
「わっ、こらっ、円堂! ……今は合宿中なんだぞ!」
「わかってるー。わかってるけど……ちょっとだけ」
 叱られて頷きながらも、円堂は抱きしめた風丸にそっと頬を寄せた。
 ふう、と盛大なため息をついた風丸だが、その腕は包み込むように円堂の背中を抱きしめ返してくれた。

END



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