clover1517への拍手ありがとうございました!!・゚・(ノД`;)・゚・ お礼SSどうぞ!! サンタの正体
クリスマスは唯の家、というのも毎年恒例になりつつある。みんな何も言わなくとも夕方唯ん家集合とちゃんと分かっている。しかし今回だけは例外が生じてしまった。 「先輩方、受験勉強はいいんですか」 「あ」受験生四人の声が見事にハモった。 「あはーははは、ま、いいじゃあん一日くらい休憩したって」 「よし。夕方までみっちり勉強しよう」 「ええー、そんなぁ!」 「それいいですね! 私も勉強会参加します」 「あずにゃん先生、よろしくお願いします」 「え」 ということで当日、早朝から夕方までみっちり勉強――十時と三時のおやつは唯が梓に拝み倒したおかげできっちり摂った――したせいか、クリスマス会の盛り上がりったらなかった。憂ちゃんが作ってくれた豪勢な料理の数々に一瞬目がくらみ、しかしガツガツとこぼしながら食べて澪にげんこつをくらった。でも痛さよりも美味しさが勝る。さらにいつもの放課後のノリでわいわいしてたら「お茶入ったわよ」なんてむぎがシャンパン持ってきたりして。唯は梓に構いすぎてその挙げ句憂ちゃん直伝の護衛術が発動、敢えなくノックアウトされた唯をそのまま放置するという。梓には気を付けよう。と、澪も「私もやろうかな」なんてこっちを見て言うものだから寒気が走った。とまあこんな感じでとにかくみんなおかしかった。 「それじゃあプレゼント交換といきますかあ!」 叫んだ途端待ってましたとばかりに歓声が上がった。唯やむぎはもうそれこそ立ち上がって小躍りみたいなことまでし始めてる。そんな二人を呆れ半分で見ている澪や梓だってほっぺを夕色に染めて嬉しさを隠しきれていない。 「んじゃあいつもみたいに音楽に合わせてプレゼント回す方式でいこうぜ。今回の音楽はクリスマスだし、やっぱり…」 「桜高校歌だよね」 「え」 「そうね」 「え。ちょ、むぎ先輩まで…澪先輩、私がおかしいんでしょうか」 「という梓を困らせる漫才が成立した。ばんざーい!」 「ばんざーい!」 「ばんざーい!」 「……田井中先輩は後輩をいじめるのが相変わらずお好きなようで」 「ぐはっ…名字呼びは、やめ、てけろ……」 「りっちゃん隊員、123のダメージだね」 「ええー、ずるーい!」 「え、ずるいんですか」 「んー、じゃあ、むぎちゃんはりっちゃんより大きく145ぐらいのダメージ!」 「くらい、って」 「ううん、そうじゃなくって……名字呼びされたいの」 あたしはいつまで死んでればいいのだろう、と思ったときにむぎのそれだ。「今更かいっ」突っ込めずにはいられず澪と二人して言えばむぎは嬉しそうにでへへとだらしなく笑うだけだった。その後、彼女自身の粘りもあり梓に「琴吹先輩」と呼ばれソファの上に立って有頂天に昇りつめたとまでは言うまでもない。 プレゼント交換も校歌に合わせて無事に終わった。唯はあたしのびっくり箱にびっくりして、むぎは梓の猫のスリッパを大事そうに何故か手にはめていた。梓は澪のうさちゃん箸スプーンフォークセットをもらいさっそくバナナクレープを少し照れながら食べていた。そしてあたしはというと… 「なんでやねん」 「だっははは、りつ、りつの、かお…くふっ、あはははははは!」 「笑いすぎだろ! って中野なにどさくさに紛れて写メ撮ろうとしてる。あたしの許可はもらったのか!」 「いやぁ、あまりに似合ってるのでつい」 「え、そう? ありがとう! って全然嬉しかないわ!! そしてゆいちゃあん、いい加減ひげで遊ぶのやめてくれるかなあ」 「ああん、今せっかく三つ編み完成するところだったのに」 「くっそう…なんだってこんな……」 いわゆるサンタコスってやつだった。しかし一年のときに澪が着たようなものではなく、本物に近い感じのもので。妙にでかい鼻眼鏡に真っ白いもじゃもじゃの髭を装備するとやれ似合ってるだの何のって、 「むぎっ、何だよこれは」 「サンタさんよ」 「それは分かる。けど、けどぉ…んんん~~」 「あ、私そろそろ帰らなきゃ」 「はあ? 何言ってんだよ澪、今日は泊まり込みでパーティーするって言ったじゃん」 「だって、サンタさん来るし」 「え」 「みおちゃん、今なんと」 「え。サンタさん来るし、って」 「えー、皆さん。突然ではありますがこれから軽音部のあり方について二者面をしたいと思います。ではまず、平沢さんと琴吹さん、それから中野」 「おい、それじゃあ二者面じゃないだろ。何で私だけ仲間外れなんだ」 「何で私だけ呼び捨てなんですか」 「あーもう、ごちゃごちゃうるさい。秋山さんはサンタさんに手紙でも書いてなさい。なんならクリスマスソングの歌詞とかでもいいから。あ、あとサンタさんのことなら大丈夫。唯ん家にいるってちゃんと澪ママが伝えてるから。さて、では行こう愉快な仲間たち」 「はぁい」 「れっつごー! ほら、あずにゃん行くよ」 「ちょっと、唯せんぱっ……」 「おい律――」 パタン、少々無理矢理だったかもしれないが致し方ない。それに憂ちゃんならあたしがこれから何をしようとしているのか分かっているだろう。 「りっちゃん、軽音部の今後って澪ちゃんもいなきゃ話し合えないんじゃないの」 「唯先輩、それは私達を連れ出す口実ですよ。ね、律先輩」 さすが梓。というかこの中で気付いてないのは唯だけだろうな。 「まあ唯以外は察してるように、澪の言ってたサンタについてなんだけど」 「ああ、サンタさんが来るって話。あ、澪ちゃんもしかしてまだ信じてムフ」 「しいいいいいいいい!」 「そういう律先輩もうるさいです」 そう、澪はまだサンタの存在を信じている。まあ元々おとぎ話とかメルヘンとか痒くて仕方がないものを愛してやまない乙女だし、そう言われてみれば納得できるだろう。しかし高三でそれは間違いなく希少種に違いない。 そろそろサンタも卒業して欲しいと願う澪の両親に頼まれ、数年前からあたしも色々やってはいるものの、結局はプレゼントをもらうとそれはサンタさんからなのだと解釈してしまうのだ。去年なんて「それあたしからなんだ」ストレートに言ったのだが、 「はは、ありえないし」 素敵な笑顔で一蹴された。というかあたしが如何に信用されてないのか十分に思い知らされた。 ということで、 「みんなに協力してもらいたい。澪に真実を告げるために」 「よしのった!」 「むぎ先輩」 「よおし、わたしもがんばる。ふんすっ」 「ちょ、唯先輩まで」 「梓、頼む」 「……まあ、澪先輩のためなら」 よっしゃ!!! これで今年こそは澪に真実を伝えられる。 あたしは三人に考えていた作戦を大まかに伝えた。まずあたしはサンタ服を着込んで寝ている澪に近付く。むぎと梓の二人が澪を起こす係。ちなみに唯はサンタが乗るソリ役だ。話を戻す。起きた澪にプレゼントをやり、サンタとして伝える。 『澪ちゃん、君に伝えないといけないことがあるんじゃ。もう君の元へは行けない。何故なら君はもう来年から大学生、立派な大人じゃ。じゃ、これからもいい子でおるんじゃよ』 『サンタさん、今までありがとう。さようなら』 と、感動サンタ卒業ストーリーとなるわけだ。ふふふ、唯はともかく二人がいればなんとかなるだろ。 小声でやるぞー! と気合いを叫ぶとおー! 小声だがちゃんと返ってきたことにあたしは喜びを噛み締めた。 「――って、誰も起きないし!」 あたしは孤独を噛み締めていた。くそ、あの声は嘘だったのか。三人共ぴーすかぴーすか寝やがって。唯のベッドで引っ付いて眠る唯と梓を揺すり起こす。が、むにゃむにゃ言うだけで起床には至らなかった。むぎも澪と隣り合わせで寝ているため迂闊には手を出せない。 参ったなこりゃ。せっかくサンタ服まで着込んだのに。しょうがない、諦めようとしたそのときだった。 「んん……」 「げっ」 暗闇に慣れていたせいか起きたのが澪だとすぐに分かった。 「えっと……や、やあ澪ちゃん。プレゼントを持ってきたよ」 「プレゼント…?」 「そ、そうじゃ! あ、でも今日は澪ちゃんにどうしても伝えたいことが」 「律、なにしてんの」 何故バレた!? 変装だって完璧なのに、いったい全体どうして。 「プレゼントって、」 「あ、ああ、えっと、その、あのう、つまりぃ……」 「律、サンタさんから頼まれてきたの」 「…………は?」 「ありがとう律。開けてもいい?」 「え、あ、うん」 わはぁ、と子どものように歓声を上げながらその袋を開けた。中身は澪の好きそうな可愛らしいピンクの水玉模様が散りばめられたアルバムただ一冊だ。あたしが買ったものだから。ごめんな、今月厳しくて。なんとなく申し訳なくて顔を上げられず、髭をいじくっていたら澪が消え入るような声で言った。 「ありがとう、りつ」 「え、あ、それは……その………サンタが、」 って、 「寝てるじゃん!」 アルバムを大事そうに抱えて眠るお子様な澪に「卒業は来年でいっか」なんて。 おわり |
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