久しぶりに見かけたリンクは、なぜか大きな竹籠を背負っていた。
「……どうしたんだい? リンク」
「あ、マルス。久しぶり」
こちらに気付いたリンクは、竹籠を背負ったままのこのことやって来た。籠には、マキシムトマトが沢山入っている。
「どうしてそんなにマキシムトマトを集めているんだい?」
「トゥーンに頼まれたんだ。いっぱい使うから集めるのを手伝ってくれって」
確かに、マキシムトマトはあまり数が多くない。集めたいのなら、人手が多い方がいいだろう。
しかし、集めているのがカービィでもヨッシーでもなくトゥーンというのが気にかかる。
「トゥーンが? 料理でもするのかい?」
「さあ、違うと思うけど」
「あ、リンク! トマト、集まった?」
と、噂のトゥーンがやってきた。彼もまた、マキシムトマトの詰まった大きな竹籠を頭の上に抱えている。
「ああ、集まったぞ。ほら」
リンクが背負っていた竹籠を下ろす。籠の中を覗き込んだトゥーンは満面の笑みを浮かべた。
「わぁ、すごい! これだけあれば全然余裕だね!」
「ところでトゥーン、こんなにマキシムトマトを集めて一体何をするんだい?」
「知りたい? 知りたい?」
マルスの問いかけに、トゥーンは何やら悪巧みをしているような表情になった。
「うん、知りたいな」
「じゃあ教えてあげる! こっち!」
元気に駆け出すトゥーンの後を追いかける。ほどなくして、トゥーンの悪巧みが見えてきた。
「……ああ……何となく分かった」
「あ、分かった? さっすがマルス!」
トゥーンはほめてくれたが、ちっとも嬉しくない。
森の中の少し開けた場所にででんと鎮座していたのは、リンク達が持っているのよりも何倍も大きい巨大竹籠だった。
裏返しに伏せられているが、片方が太い木の枝で支えられているため斜めになっている。そして木の枝にはロープが結ばれ、端はこちらの足もとに伸びている。
要するに。
「トマトでおびきよせてカービィを捕獲するつもりなんだね……」
このサイズということは、鳥ではありえない。そして、エサがマキシムトマトという時点でターゲットはただ一人だ。
「だってピカチュウは失敗したんだもん」
「やったんだ」
ここまであからさまな罠だと、逆に引っかかる方が困難だろう。いや、カービィとマキシムトマトの組み合わせだ。もしかしたら、引っかかるかもしれない。
見たところ、使われているのはただの籠だ。トマト側にも細工はしていないようだし、たとえ引っかかったとしても危険はまずないだろう。
「リンク、あっちから適当にトマト設置してきてくれる? 僕は籠の方に設置するから」
「ああ」
リンクが適当にマキシムトマトを置いていくのを見送って、トゥーンも籠の中に入ってマキシムトマトを積み上げる。
「……あのサイズの竹籠、一体どこで手に入れたんだろう」
カービィどころかトゥーンすらもすっぽり入る、およそ実用性のなさそうな巨大籠だ。
……まさか、このためだけにわざわざあつらえたのだろうか?
特にやることもないマルスが眺めていると、トマトを置き終えたのかリンクが戻ってきた。
「リンク、トマトつまみ食いしたね」
「あれ、バレた?」
「口元」
マルスが右ほほを指で示す。リンクがそのあたりを指でぬぐうと、トマトの汁がついていた。
「よっし、完成! あとはカービィをおびきよせるだけ!」
トマトを積み終えたトゥーンが、ばっと立ち上がって両手を広げた。いくら規格外れの巨大さとはいえどもそこは狭い籠の中、振り上げた手は籠に当たり。

パコンッ。

「……あ」
その衝撃で支えの枝が外れ、籠が完全に地面に伏せった。当然ながら、中にいたトゥーンは閉じ込められる形になる。
「あーあ、何やってるのさ」
リンクが苦笑しながら助けようと足を踏み出した瞬間、すさまじい足音が響き渡った。
「なっ、何だ? ヨッシーの大群か?」
「こっちに来る!」
マルスが剣を抜いて警戒する。足音と共に、それの声らしきものも聞こえてきた。
「と~ま~と~!」
「……なんだカービィか」
食べ物を目の前にしたカービィが暴走しているだけのようだ。マルスは剣をおさめ、巻き込まれないようトマトから少し離れた。
「とまとっ、とまとっ」
やがて、これ以上ないほど幸せそうな顔をしたカービィがやって来た。右手で取ったマキシムトマトを頬張っては左手で次のトマトを掴み、素晴らしいスピードであれだけあったマキシムトマトを胃袋におさめている。
「んーっ、これ重いー」
と、巨大籠が少し傾いた。トゥーンが脱出しようとして、片側に体重をかけているようだ。
が、方向が悪かった。マキシムトマトに目のくらんだカービィに、山と積まれたマキシムトマトが見えるようになってしまったのだ。
「トマトがいっぱーい!」
ハートマークをまきちらしそうな勢いで叫んだカービィは、その勢いのままに吸い込みを開始した。
「えっ、何っ、……うわぁぁぁぁぁぁっ!」
全く存在を認識されなかったトゥーンごと、山と積まれたマキシムトマトと巨大な竹籠、ついでにロープ付きの枝がカービィの口の中に吸い込まれていった。
後に残ったのは、吸い込みの範囲から外れていたリンクとマルスだけ。
「はぁ~あ、し・あ・わ・せ」
「……っておいカービィ! 今トゥーン吸い込んだだろ! ほらペッして、ペッ!」
でれんと脱力しきったカービィの口を無遠慮に開き、リンクが腕を肩まで突っ込む。が、カービィはマキシムトマト食べ放題に満足したのかされるがままだ。
必死でトゥーンを探すリンクとなすがままのカービィを眺め、マルスはぽつりと呟いた。
「……イタズラも、仕掛ける相手を選ばないと怖いね」
とにかく、消化される前にトゥーンを見つけなければいけない。



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