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以下、2019年10月のオンリーで無料配布したガロクレSSになります。
その次は上記ガクプチオンリーカードラリー用に書いたSSがありますのでよかったらどうぞ~



『今夜は、百年に一度と言われる大流星群が現れます!皆さんも、是非ごらんください!』
 ニュースキャスターが興奮気味に言うのをぼんやりとした目で見つつ、クレイは眠気覚ましのコーヒーを口にして夕刊をチェックする。昼前まで、依頼されていた仕事を徹夜で仕上げていた為、飲まず食わずで仮眠をとってこの時間。窓から夕日が差し込み始め、テレビは夕方のニュース一色の時間帯。今日はこの大流星群でどこもかしこも賑わっている。
 クレイは読み終わった新聞をテーブルの端に置くと、今日の夕飯はどうしようかと冷蔵庫を開いた。基本的に片手で料理をするのは時間がかかる。夕方から準備をしておかねば、遅い時間に食事をすることになるのだ。
 ジーンズの後ろポケットに入れてあるスマートフォンが震えて、設定された音が鳴る。それで相手が誰だか分かるので、クレイは素早くスマートフォンを取り出して画面を確認した。
『今夜はデート。夕飯はこっちで準備するからゆっくりしててな』
 きっとまだ仕事中なのだろう。簡素な文面だが、そこからでも相手のにやけた笑顔が思い浮かんでしまい、クレイは溜息を零しながら「分かった」と返事を打った。
 クレイは様々な制限とガロの監視下でこの一軒家に軟禁されている。監視カメラで常時チェックされているとは言え、ある意味誰の目にもつかないかなり快適な日常を過ごすことができていた。政府から与えられる仕事も、街の復興を中心に様々な分野の研究・開発について多種多様なものがあり、飽きることがない。
 基本的には外出は不可能となっているが、政府から呼び出された場合と、ガロが許可を得た場合は別だ。先程のデートというものも、本来ならば許されるはずがない内容だろうが、ガロも悪知恵をつけてきたのかあの手この手で許可を得てクレイを外に連れ出すことが多くなった。
 例えクレイがノーと言おうが、無理矢理引き連れていくくらいには、ガロも強くなったのである。その力強さで、二人は複雑な関係ながらも恋人と言う場所へおさまったのは、クレイもだいぶ丸くなったからかもしれない。
 色々と考えていると、腹部からぎゅるりと音が鳴る。流石に軽く何かを食べておかないと、逆に気持ち悪くなるかもしれないと思い、キッチンのフルーツが入ったカゴからバナナを一本取って齧った。
 バナナを食べ終わると顔を洗って歯を磨き、新しい服に着替えて身なりを整える。ジーンズにフード付きのパーカーと、ありきたりでラフな格好は、外出時に人目にもつかないのでクレイは好んで着ていた。基本的にはガロがいないとこの家からも出ることができないので、彼が一度帰ってくるまでクレイはリビングのソファーでゆっくりとニュースを見る。内容は、やはり大流星群の話題ばかりだ。
 プロメアが消え去ってから、こういった世界を上げての一大イベントは初めてで、明るく盛り上がりがあるのは世界が平和な証拠だとクレイは思っている。
「星、か……」
 学生時代は望遠鏡で眺めたこともあったが、常にプロメアの事で頭の中がいっぱいだった。こうやって、何も気にせずに、純粋に星を見上げる機会など二度と無いと、思っていた。クレイは、ネット中継でも見てみるかとスマートフォンを手にして、ふと気付く。ガロがデートだと言っているのは、もしかしてこの大流星群を眺める為なのだろうか。
「クレイ、お待たせ!」
 丁度いいタイミングと言うべきか何と言うべきか。ガロが上機嫌な声で帰宅を伝えると、クレイは小さな溜息を零す。
「今日はなんだ。デートなど、無駄なことで上の奴らを困らせるんじゃない」
「無駄なことじゃねぇって。俺にとっては大切なことなんですー」
 リビングにやってきたガロに少し棘のある言葉で言っても、ガロは何も気にせずそう返してきた。仕事の荷物を床に置くと、別のカバンを手にして、クレイの上着も持つガロはとても楽しそうである。
「さ、行こうぜクレイ」
 空いている手を、クレイへと差し出した。ガロのその手を、クレイは渋々といった感じで掴む。そんなクレイに、ガロは素直じゃねぇなぁと思いつつも、ちゃんと手を取ってくれいるクレイに愛おしさが募るばかりだった。
 ガロの運転する車で向かった先は、クレイも良く知る場所だった。元フォーサイト財団の研究員が多く勤める、研究施設のビル。ここにはエリスも働いていた。
 何故ここに、とクレイは思いながらも、地下の駐車場に車を止めたガロの後に続いて付いて行く。クレイが外出する際は、ガロから一定の距離を離れるとセンサーが作動するようになっている為、ガロからうっかり離れてしまうと厄介なことになるのだ。ガロもそれを分かっているからこそ、最近は外出する時に自分の好きな場所へクレイを連れて行こうとする。
 見慣れたビルの中を通り、特別なキーを使って最上階に近いフロアへ到着した。そこはエリス達がいるフロアで、クレイはガロをじとりと見ながら、この先どうなるか分からないが大人しくしているしかない。
「エリス博士ー!デリバリー、届いてるか?」
「あらガロ君、いいタイミングね。さっき到着したところよ?」
 中の様子もいつもと違い、かなりリラックスした様子で和気あいあいとしている。それに、いい匂いも。
 ガロはエリスに話しかけながら近寄ると、部屋の大きなテーブルにあるランチボックスのようなものをいくつか手にしてカバンに詰める。エリスに代金を渡そうとして、これくらい奢らせてちょうだいと言われてしまった。
「いや、流石にそれは……」
「こんないい日にクレイを連れ出してくれたんですもの。あの人、たまには外の空気を吸ったほうがいいから、これからも可能な限り連れ出してあげてね、ガロくん」
「……はい!」
 柔らかく穏やかな微笑みを浮かべて言うエリスに、彼女は彼女なりにクレイを心配している部分があることを察したガロは素直に頷く。エリスは白衣のポケットからキーカードと複数のカギが束ねられたキーリングをガロに手渡した。
「はいこれ、お約束のもの。風が強いから、気を付けてね?大丈夫だとは思うけど、安全第一で」
「そりゃあもう、俺に任せてください!」
 キーリングを受け取ったガロはウインクをしながら自分の胸を叩く。流石レスキュー隊員ねとエリスが小さく笑うと、クレイがこちらをじっと見ていることに気付いてガロの肩を叩いた。
「あら、待たせちゃったみたいね。早く行ってあげて」
「お?悪ぃなクレイ。そんじゃ、エリス博士も楽しんでな!」
「……待ってなどいないし、そっちが勝手に盛り上がっているだけだろう」
 ツンとした態度のクレイに、エリスは軽く首を傾げる。
「あらあら、彼女さんご立腹かしら。大丈夫よクレイ、ガロくんは貴方一筋だもの」
「ったはー!そんなぁ、照れるなぁ……!」
「っ……だ、れ、が、彼女だ……!お前も一々反応するんじゃない……!」
 ガロだけでなく、エリスもかなり図太くなっていた。二人を相手するだけでどっと疲れてしまうクレイは、これ以上反応しないようにと視線を外して黙り込む。
「よーし、クレイ行こうぜ」
 ガロはクレイの右手を取ると、軽やかにフロアを後にする。クレイは軽く眉を寄せつつも、ガロの好きなようにさせていた。一々反応しても面倒なだけだ、という気持ちと、自分がどんなに冷たくあしらおうが何をしようが決して諦めることの無かったガロの熱意に、ほんの少しだけ絆されている気持ちと。
 一応は恋人という立場になったが、それでもクレイはまだガロが己に好意を向けていることが信じられない部分があった。勿論、それをガロにも伝えたが、ガロは「クレイが信じるまで、俺は何度でも言い続けるよ」と笑う。どこまでも真っ直ぐで、太陽のように眩しいその笑みに、クレイは何とも言えない気持ちになるのだった。
「クレイ?考え事か?」
「っ……あぁ、少し」
 ガロに話しかけられてハッとしたクレイは、今まで訪れたことのない屋上の扉が目の前にあることに気付く。随分とぼんやりしていたようで、そんな自分に苦笑をしつつガロが扉の鍵を開ける様子を静かに見つめた。カードキーでセキュリティーを解除し、複数のカギで扉自体のカギを開けていく。
「外は風が強いから、絶対に手ぇ離すなよ?」
「そんなに心配なら、縄で縛るのはどうだ?」
「おーう……そういうプレイがお望みで?」
「馬鹿が」
 クレイの右手を取って、軽口をたたきあいながら、ガロがゆっくりと扉を開けると確かに強い風が二人を包んだ。ガロは自分の左手に力を入れなおし、クレイの右手をしっかりと掴む。クレイはガロの手の熱さに少し目を開いて繋がれた手を見やった。がっしりと骨ばったガロの手は、子供の手とは程遠い。ガロが幼い頃は、力強く握ってしまえば潰れてしまうのではないのかというくらいに、小さく、柔らかかった。
「クレイ?」
「……風が、強いな」
 動きが止まったクレイを、ガロは首だけ動かして視線を向ける。クレイは何でもないというように呟くと、ほんの少しだけ手に力を入れてガロの手を握り返した。
 扉の先は宵闇と星空、そして街の光が広がっている。この屋上には災害時など避難用のヘリポートがあるくらいで、遊べる場所ではない。だが、星空を楽しむには十分である。
「こんな場所でデートなどと言うのか」
「風強いけど、景色は良くねぇ?それにここなら、あんたも何も気にせず過ごせるだろ?」
 クレイの手をぐいぐいと引っ張りながら、屋上の中央でもあるヘリポートへたどり着くと床にどっかりと座り込んだ。手を引っ張られているクレイも、渋々ガロの隣へ座る。立っている時よりは風の力も少ない。だが、びゅうびゅうと吹きすさぶ風に髪が乱れる。
「あと二十分後くらいかな。よーし、メシにしようぜメシ!」
 腕時計で時間を確認したガロは、鞄からボックスを取り出すと、脚の間に入れて風で飛ばないようにしつつペットボトルの飲み物も取り出した。ミネラルウォーターのキャップを軽く開けてからクレイの脚に突っ込み、自分のコーラも同じく突っ込むと、少し鋭い視線がガロへと刺さる。だが、それくらいでは気にしないガロはボックスの中からサンドウィッチを取り出した。
「いくつか種類あっけど、どれにする?BLT、スモークサーモンとクリームチーズ、ツナと卵、ローストチキン!」
「スモークサーモンとチーズ」
「はいよっ」
 ガロは風で中身が飛ばないように包みの端だけを開き、クレイの口元へサンドウィッチを差し出す。クレイはそれを一口齧り付いてから、ガロの手からサンドウィッチを取った。むぐむぐと良く噛むと、スモークサーモンとクリームチーズの絶妙な味が広がり、食欲が増す。
「俺はBLTにしよっ」
 クレイがちゃんと食べている様子を見てからガロもサンドウィッチに手を伸ばした。包みを軽く開いて、口を大きく開けてばくりと齧る。豪快に一口で半分近くを口に入れたガロの頬は、まるでリスの頬袋のようだ。クレイはそんなガロを横目に、そっと空を見上げて満天の星空を眺める。クレイたちがいるのは高層ビルなので、周りには遮るものが少なく視界いっぱいに星空が広がっていた。
 こんな風に、何も考えずただ星空を眺めるだけなんて、いつぶりだろうか。クレイはぼんやりとそんなことを考えながら、サンドウィッチを頬張る。まるで幼い頃に戻ったような、不思議な気分だった。
「んぐ……くれー、もいっこ、どっちくう?」
 もう食べ終わってしまったガロがもしゃもしゃと顔中を動かしながらクレイに訊ねる。
「お行儀が悪いぞ。ローストチキン」
「んへー」
 クレイの返答に頷き、ガロはツナと卵の包みを手にした。それを半分ほど食べた頃には、クレイも一つめを食べ終えて残りをガロからもらう。先程ガロに向かって行儀が悪いと言いつつ、片腕のクレイは口で包みの端を開けてサンドイッチに齧り付いた。二人で静かに食べ終えると、ゴミが飛ばさないようにボックスに紙屑を戻してカバンにしまう。
「結構旨かっただろ?ここのサンドイッチさ、種類も多くて毎回悩むんだよなぁ」
「まぁ、悪くない」
「へへ」
 あまり食に興味がない、というより食事は最低限のものしか摂っておらず、プロメアを抑え込む為に三大欲求も制限をかけていたというクレイに、ガロは少しでも自分の好きな食べ物や好きな味を増やしてもらいたかった。そんなクレイから好反応をもらえて、嬉し気に笑いながらガロはクレイと肩を合わせるようにぴったりとくっつく。夜風の冷たさで少し体も冷えていたのか、ガロの体温の高さがより伝わって、クレイはこそばゆくなってしまった。
「お、そろそろかな?」
 ガロは腕時計をクレイへ見せて今の時間を一緒に確認する。時刻は大流星群が始まる約一分前。するとガロはクレイの後ろへと移動をして、後ろから覆い被さるように一度抱き締めると、そっとクレイの目を両手で隠した。「……一体なんだ」
「折角だから、カウントダウンしてから見せたほうがロマンチックじゃん?」
 頭上で楽し気にしているガロの気配をしっかり感じたクレイは、そうか、とだけ言って好きなようにさせる。ガロはこんな風に突拍子もないことをしてくるので、毎回反応をしているとそれだけで疲れてしまうことを、クレイは学んだ。基本的には、クレイが本当に嫌だと感じることはしてこないので、その上手い線引きに少し腹が立ってしまう。とは言え、それを思い切り顔に出すことはない。
「さん、にー、いちっ」
 時間がきてガロの手が離されると、視界いっぱいに流星群が広がった。
「……こりゃ、すげぇな」
 ガロも夜空を見上げながら感嘆する。それはまるで、星のシャワー。流れ星がとめどなく飛んでいく光景は、圧巻だった。まるで手を伸ばしたら、手のひらに降ってきそうで、ガロはクレイの肩越しに左腕を夜空へ伸ばす。
「流星群って、こんなすごかったっけ?」
「大、が付くほどだからな。それにプロメアがこの世に現れ、消えてから、まだまだ地球の生態系にどんな影響を及ぼしているのか研究中だ。この大流星群も、ある意味で変異の一つと言えるだろう」
「へぇー。クレイはそんなことも仕事でやってんのか?」
「生物学は専門外だが、プロメアに関する事だと、殆どの事は私が関与している」
「大変だなぁ」
 二人で何気ない会話をしながら大流星群を眺めて、ゆっくりとした時を過ごすなんて以前の自分なら信じられない。クレイは頭の片隅でそんなことを思いながら、星に目を奪われてしまう。そんなクレイの様子に気付いたガロは、腕を下すとそのままクレイを抱き締めた。まるでクレイの存在を確かめるように、しっかりと力強く抱き締めてくるものだから、クレイの意識も星だけでなくガロに向けられる。
「大丈夫だ、逃げはしない」
「そうじゃねぇって。……なんだか、クレイも星みたいにキラキラしてて、飛んでっちゃいそうだなって思っただけ」
 強い風で常に髪がなびき、金色が宙で揺れる様子がキラキラとした星のように見えた。ガロはクレイの首筋に頬を押し付けるようにくっつくと、しっかりとした脈が伝わってきてどこか安心する。
「こんな巨体が飛んでいくか」
 呆れたような、けれども、おかしさで少し笑ってしまったのか声が震えているクレイに、ガロもつられて小さく笑った。
「もし飛んでいきそうになっても、必ず俺が捕まえるよ」
「……そ、うか」
「あーもう!笑うなって!」
 クレイにしては珍しくツボにはまったようで、笑いを抑えようとしているが肩が小さく震えている。クレイを抱き締めているガロはそれがよく分かり、少し頬を赤らめながら言った。
 ぴったりとくっついていると、互いの体温が心地良く、ガロはそのままの体勢でそっと星空を見上げる。
 二人だけの空間。クレイの金色の髪。降り注ぐ星。力強い脈拍。あたたかな体温。
「クレイ」
 愛おしさが胸から込みあがってくる。その気持ちを声にのせ、優しく、柔らかく、包み込むように、ガロはその名を呼んだ。
「どうした。センチメンタルになったか?」
「へいへい、そーっすね」
 そうは言いながらも、ガロの体に寄りかかるように体重を少し後ろにのせるクレイ。本人はこのことに気付いているか分からないが、その分かりづらい反応がガロにとって愛おしくて堪らない。
「なぁ、あんたに渡したいものがあるんだ」
「ほう……?デートの終わりにプレゼントか。なんだ、シたいなら素直に言えばいい」
「ちげーって!いや、シたくないわけじゃねぇけど……って!そういうことじゃないんだって!俺は普通に、クレイにプレゼントしたいの!」
「下心が一切ないとは珍しい」
「んなことねぇだろ~!?はぐらかすなって」
「はぐらかしたつもりはない。事実を述べたまでだ」
 ガロはクレイのことを大切にしたい気持ちと、相反する若さゆえの性欲で、付き合いたての頃はクレイの好きそうな物をプレゼントした時が夜のお誘いの合図となっていた。ガロは恥ずかしい気持ちと己の不甲斐なさに小さく唸りながら、手を伸ばしてカバンを取ると中から何かを取り出す。
 それは少し厚手の、一枚の紙だった。
「風で飛ばないように気を付けて。これ見てくれ」
 ガロがクレイの顔の前にその紙を持っていきながらガロは少し緊張した声で言う。
「星の命名権……?」
 クレイは紙をしっかりと掴むと、書かれている文字を読んだ。
「『Omega Centauri G to K』……嫌味か?」
「断じて違う」
 オメガケンタウリ。地球と似た惑星の、その名は、今のクレイにとってはあまりいいものではない。
 現在、オメガケンタウリの存在はごく一部の人間しか知らないものとなっている。選別市民にも、地球と似た惑星であることしか伝えていない。いわば、これは国家機密事項だ。地球に似た惑星という存在は、世紀の大発見とも言えるが、まだプロメアが完全に去ったことを科学的に示せない為に、研究対象から一時的に外さなければならない。
「あの星はクレイが見つけた星だ。あんたは、確実にひとが生きられる道を探したんだ。その事実は覆らない」
 クレイを抱き締め直すと、ガロは穏やかな声で、しかし力強く言い放つ。
「だからこそ、俺はクレイにあの星に行ってほしい。できれば、隣には俺がいるといいな。ってか、隣にいたい」
「……ワープも、プロメアがいたからこそ出来たものだ。また一から再出発しなければならない。ワープは、夢のまた夢の話だ」
「そうか?エリス博士だって、まだ研究し続けてるんだろ?時間はかかるかもしれねぇけど、そんな遠い夢の話じゃねぇだろ?」
「はぁ……何も知らないから、そう言えるんだ」
 呆れたように言うクレイに、ガロは顔をずいっとクレイの前に寄せて視線を合わせた。
「そうかもしれねぇ。でも、夢は見なきゃ叶わない。そうだろ?」
 流星群にも負けないガロの瞳の輝きに、クレイは思わず目を見開いてしまう。
 あぁ、そうだ。こいつはいつだって、こうなのだ。
「……そう、かもな」
 クレイは、まだバーニッシュ化する前のことを思い出す。上手くいかなくてむしゃくしゃする時や、冷静になりたい時、一人で真夜中の星空を眺めては、様々な夢を想った。
「だからさ、本物のオメガケンタウリの前に、俺からのオメガケンタウリをプレゼント」
 にかっと笑いながらガロは紙を指さす。
「みなみのかんむり座……」
「その星の一つの名前が、俺からクレイへのオメガケンタウリ」
 紙を掴むクレイの手の上から、ガロの手が添えられる。
「本当は指輪をプレゼントしようと思ったんだ。でも、きっとクレイのことだから邪魔だって言われそうだし……ま、ゆくゆくは指輪もプレゼントするつもりだけどさ、その前にもっとスケールのでけぇもんをプレゼントしたくって。俺の愛は、星よりもでっけぇんだぞってな?」
「そう言う割に、金額は小さいな」
「うぐっ!……そりゃ、クレイにとっちゃそうかもしれねぇけど……」
 元司政官のクレイと、特別部隊とは言え公務員のガロ。金銭面でもかなり差がある。クレイのことだから、今までかなり高価な物もプレゼントされていたはずだ。それに比べてしまえば、ガロのプレゼントは小さく見えるかもしれない。
「…………まぁ、恋人に贈るプレゼントとしては、ロマンチックでいいんじゃないか?」
「っ!」
 クレイからの言葉にガロは目を丸くさせ、次の瞬間には蕩けるような微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、忘れられないデートになったか?」
「ふむ……それを決めるにはまだ早いのではないか?」
「へっ?」
 クレイはきょとんとしているガロの肩に後頭部を乗せ、後ろへ体重を一気にかけた。ガロはクレイごと倒れないように踏ん張り、しっかりと体を抱き締めて支えながら、クレイの髪が肩や顔をくすぐる刺激に瞳を細めた。
「まだこの後もあるのあろう?」
「っ!も、もち、ろん!」
「期待しているよ、ガロ……?」
 少し甘さの含んだ声でクレイが言えば、ガロは流星群をバックに顔を赤くさせ、クレイを思い切り抱き締めた。その力強さに、クレイはつい驚いて目を見開いてしまう。
「ぜっ、ってーに!一生忘れられない日にさせるからな!」
「……言っておくが、私のハードルは高いぞ?」
「そんなハードル、軽々と越えてやらぁ!」
 青い瞳の中にある赤が、ごうごうと燃えている。ガロの心をも表しているその瞳を見て、クレイはなんて眩しいのだろうかと思ってしまう。
星よりも輝き、太陽よりも燃え盛るガロの瞳は、時折恐怖を感じる程に、眩い。
 けれども、その瞳に映るのが自分であることに安堵している己もいた。
「クレイ、いつか一緒にオメガケンタウリに行こうな?約束だ」
「いつになることやら。何度でも言うが、どれだけ時間がかかるか分からないのに」
「一生かかってでも構わないさ。俺はあんたと一生添い遂げるつもりだしな?」
「 っ…………お前は、それでいいのか?」
「あぁ、勿論だ!嫌がられても一生添い遂げる」
 曇りなき瞳で、どこまでも真っ直ぐなガロの言葉。胸をさす程の甘い痛みに、クレイは深紅の瞳を細めて苦笑を零す。
「本当に度し難い馬鹿だ」
 もう、一生忘れられない日になってしまった。だが、それを言うのは悔しくて。クレイはそっと首を伸ばすと、ガロにキスをして、まだ星が降り注ぐ夜空を見上げるのだった。
 

End.



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