(TOS / イセリアっ子)




 くすんだ灰色の雲が四散し始めていた。
 虫食いされた布の隙間に似た穴から澄んだ青を認めた子どもの幾人かが歓声を上げる。その中のやんちゃざかりの男の子が勝手に廊下へ走り出していたのに目敏く気づいた子が後を追い、そっと視線を姉に向けると嘆息をついていた。なのにその口許は緩やかな弧を描き、「あなたたち、まだ授業よ」と体裁を整えつつ仕方なさそうに小走りで教室を後にする。
 まだここにも生徒(割合大人しい子と年長の子が多かった)が残っているのに、何の言葉も添えずに行っちゃって。溢しそうになった息を飲み込まなければ姉の二の舞になる確信があったので我慢する。年が離れているといってもやっぱり姉弟で、積極的に顔へ出さずとも嬉しいと感じるところが似通っている部分があった。
 それにしても。
 最後列から嫌でも気付く呑気ないびきに身体中の力という力が抜けていくのがよく分かる。ほんの少し困惑の色を覗かせながら振り返った青色の瞳に肩をすくめて見せてから、脱力で落ちた足腰に無理やり力をこめた。

「ばか 、起きないと置いてくよ」

 がん、と椅子の足を蹴り飛ばす。悲しいことに、自他共に非力と認めるその力では、蹴り飛ばすの表現に合わない軽い衝突音が響くだけであった。
 それでもその振動に何か思うことがあったのか(なんて言ってみるけど、ただ単に眠りが浅かっただけだろう。わずかに顰めた顔から、邪魔するな、の念を感じた)呻き声とともにのそりと赤が蠢いた。

「あれ、授業は?」

 なんて、あったって聞く気もないくせに問いかけてくるから、少年はうっかり噴き出した。少年にじっとりとした視線を数秒向けてから改めて教室を眺める彼に、のんびりとした少女の声が簡単に状況を説明した。
 そうなのか、と目を丸くした次の瞬間には、赤色は手近の窓に手と足をかけていた。

「ちょっと、なにしてんのさ!」
「なんだよ、今なら先生にばれないからいいだろー」

 言うが早いか、赤色は光の中へ飛び出していった。続いて少女がふわりと窓に駆け寄っていくのを、「御子さまったら」と優しく笑う生徒たちとともに見守ってしまう。
 赤色が手を差し出して脱出の手助けをしているところで、しょうがないなあと少年は苦笑し、自身も後に続いていった。





 その後、誰かの証言によって、三人正座で先生の説教を受ける刑が執行されるというのは、先生の弟である少年だけが、おそらく気づいていた。
(それでも2人と一緒に、2人と同じ目線で)





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