“感情”

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「カイト兄」
狭い一室でおやつタイム。それぞれの好物であるアイスにバナナを口にしながら、二人は楽譜を見つめて、時折ペンでチェックを入れていた。
「ここなんだけど、どう歌えばいいかな」
レンが指し示したのはサビ部分。喜びを歌うべき箇所だが、その部分の解釈に戸惑っているらしく、一息入れるための休憩時間であるにもかかわらずその眉間には皺が寄っている。
「あぁ、ここかぁ……」
ハー●ンは高い、と一刀両断され、今日はスーパー●ップ抹茶味。味は落ちるが容量が多いのでそれで我慢しているカイトは指し示された箇所を見つめて苦笑した。人の感情は簡単に言葉で表すことができないものが多く、歌であらわすことも同様に難しいことだ。特に“喜び”も様々あり、まだ経験の浅いレンには少し難しいと感じるのも無理がない。
「そうだなぁ、歌合戦で勝ったりしても嬉しいし、人に誉められても嬉しいよね? でも、ここはそういう“喜び”じゃないんだ。何ていうのかなぁ……」
唸りながらアイスを一口。冷たさと抹茶のほろ苦さが口の中に広がり、ある種また“喜び”を感じる。
「そうだなぁ、マスターと会ったとき、とかかなぁ」
「マスターと?」
意外な言葉だったらしく、小首を傾げたレンは彼を促すように目線を向け、そのまま大人しく聞く姿勢を整えた。
「うん。勿論、メイちゃんとかミクとかリンとか、皆と歌うのも“嬉しい”けど、特別な人と会うのって、また違うって言うのは分かる? 俺たちにとってマスターっていうのは特別な存在で、マスターがいるから歌うことが出来るよね。だから、特別な人に会えるときの“喜び”に近いのかな」
「特別な人、かぁ……。何となく分かった、気がする……」
「そんな感じでいいと思うよ。レンにはまだ早い気するし」
特別な人、特別な感情。
感情は、次第に覚えていくべきもの。1と0の世界から構成されてる中で、1と0じゃ表しきれないもの。
それが感情。
それを知ることで、歌は更に広がる。

隣で悩む弟を見ながら、カイトは小さく微笑みを浮かべていた。




――了――


アトガキ


拍手お礼駄文です。短いですが、“ありがとうございます”(平伏)
拍手お礼用に仕上げたのは、多分●ヶ月ぶり……のはずι
半分放置みたいな形でしたから……これからはもう少し心入れ替えて更新して行きたいと思います、けどね(苦笑) 


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08/03/25 伴和紗 拝



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