お礼ページ<忍たま*鉢雷編>
僕の顔でそんな事言わないで。
「もう三郎。アレ程本はちゃんと返してって言ったのに!」
柳眉を顰めて雷蔵は腕を組んだ。眼前には自分と寸分違わぬ自分そっくりの顔。今その顔にはしまったと焦りの表情が浮かんでいる。
「もう貸さないし、図書室出入り禁止にするからね?」
「え!」
そんな!、と声を上げた級友は、彼にしては珍しく瞳を大きくしておろおろとしている。
「謝る!ごめん!済みません!だから許してよらいぞうぉっ」
両手を合わせて拝まれても、雷蔵はつん、と顎を逸らして目も合わせない。三郎はほとほと困り果てて、為す術なくその場にしおしおと座り込んだ。
雷蔵は滅多な事では怒らないが、一度怒ると頑として折れない。出入り禁止と言われたからには、ずっとでは無いにしろ確実に数カ月は本当にそうなってしまう。
委員長は六年生だとしても、図書委員で雑務を取り仕切っているのは雷蔵だ。その雷蔵がやるというのだから委員長も委員会の面々も文句があるはずがない。
しかも、非があるのは三郎の方だ。このままでは興味深い文献やら資料やらが当分読めなくなってしまう上――――
(雷蔵に会えなくなってしまうじゃないか!)
同じ学年同じ組、しかも同室なのだから全く会えなくなるわけではない。否、会えない時間の方が遥かに短い。他の級友達から見ればベタベタし過ぎらしいが、三郎はそうは思わない。彼にとっては一時離れるだけでもかなりの苦痛になるのだ。
人はそれを恋の病と言う。
「らいぞうぉ。貸出禁止は甘んじて受けるから、出入り禁止はやめない…か?」
チラリと雷蔵がこちらに目を遣る。
「直ぐに返さなかったのは本当に悪かった。反省してる。だから貸出禁止は最もだと思う。でも……」
「でも?」
雷蔵が三郎の正面に腰を下ろす。きちんと正座して向き合った顔は未だ怒ったままだ。先を促すように首を傾げた。
「出入り禁止は、嫌だ」
嫌ってお前ねぇ、と雷蔵が天井を見上げて深く嘆息した。
戻した視線に飽きれたような色が滲んでいる。
なんで?、と雷蔵が短く問う。
「雷蔵に、会えなくなるのは嫌だ」
一瞬きょとんと眼を見開いて、直ぐに雷蔵の顔が朱に包まれる。
ば、と口を開いて、しかしそれ以上続けられなくて口が開いたままになる。
三郎は息を吸った。
「雷蔵にちょっとでも離れて欲しくない」
一息にそう言って、真っ赤になって硬直している雷蔵の顔を窺う。当の雷蔵は胸に手を当て、深呼吸を一つ。
じっと待っていると、息を整えた雷蔵が苦い顔でこちらを向いた。そのままじっと見つめ(睨み?)合う。すると、雷蔵が、はあ、と脱力してまた天を仰いだ。
「そんな顔しないでくれる?僕が苛めているみたいじゃない」
悪いのは三郎なのになぁ、と呟く。
「いいよ。分かった。出入り禁止は僕もやり過ぎだと思う。次の試験が終わるまで貸出禁止でどう?」
結局折れてしまった。
三郎は雷蔵がなかなか折れないと思っているようだが、なんだかんだと言いつつ三郎に甘い事を実は知らない。
だからそれを知っている級友達には、また痴話喧嘩か、と言われてしまうのだ。
知らないのは当の三郎のみ。
「僕も手伝うから、本返しに行くよ三郎?」
満面の笑みで頷いた三郎に、雷蔵は苦笑した。
自分の顔に甘いのって自惚れかなぁ、と内心で呟いて、積み上がった本を一つ手に取った。
拍手ありがとうございましたー!
雷蔵に対して余裕がある三郎なんて拙宅には殆ど見られません。
それでもこんな鉢雷ですが喜んで頂けたら幸いですっっ
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