お礼ページ<遙か4*風柊&忍那岐編>



今日は珍しいこと尽くしだわ。


千尋は振り返った。
近くにいた那岐と柊は、ぱちくりと一つ瞬いてから、首を傾げる。

「如何致しました、我が君?」
「何?もう飽きた?」

柊と、たまたま暇だった那岐を付き合わせて書庫に軍事の勉強をする為に篭っていた千尋の行動に、那岐はやれやれと片眉を上げた。だからやめて置けば良いのに、と嘆息した那岐にぷっと頬を膨らませた後、千尋は書庫の扉を見遣った。

「喧嘩してる声がしない?」
「そうですね」

間髪入れずに返した柊に千尋はまたぷっと頬を膨らませた。
気付いていたなら言ってよ、とその空色の瞳が非難する。
柊は珍しく興味なさそうに嘆息した。

「我が君のお耳に入れるような事ではありませんでしたので……いやはや、大変下らない」

千尋と那岐は顔を見合わせた。――――本当に珍しい。
喧嘩をしていたからとわざわざ千尋に知らせるような事はしないが、それでも"下らない"と不快を顕わにするような性格ではない。常に薄く微笑を浮かべ言葉を煙に巻くような柊が、今は隠す事なく顔を盛大に顰めている。

「下らないって…喧嘩よ?止めなくちゃ。仲が拗れたら大変じゃない」

ねぇ、と同意を求め千尋は戸惑うように那岐を窺う。一瞬面倒臭そうに片眉を上げ、しかし那岐もまた腕を組んで頷いた。

「下手に拗れて士気が下がられても面倒じゃない?」

喧嘩の仲裁も面倒なんだけどさ、と嘆息気味に付け加えると、途端に千尋が頬を膨らませる。そして少し思案げに睫毛を伏せた柊の腕を引いてずんずん書庫の出入口へと向かう。さも面倒そうにその後ろを見守っていた那岐は、しかし書庫の扉の前で振り返った千尋の膨れっ面を見て、はいはい、と頭を掻いて降参した。

「皆仲間なんだから!心配じゃない!」
「分かった分かった。僕が悪かったよ」
「しかし…我が君、私と那岐が仲裁に入る方が火に油を注ぐ事になり兼ねませんが、宜しいのですか?」
「?どうして柊?」

千尋達の元へ追い付いた那岐も、は?、と片眉を上げて柊の顔を見遣る。柊は変わらず渋い表情で肩を竦めて見せた。

「開けて見れば分かります」

示された扉を開ける前から男同士の言い合う声は聞こえていたが、声は判然として相手までは分からない。

(誰が喧嘩しているのか、分かってるみたい?)

千尋は不思議そうに綺麗な軍師の顔を眺めて、次いでろくに考えもせずに扉に手を掛けた。グッと力を入れて――――そしてあんぐりと口を開けた。

「聞き捨てならないね、忍人。確かに那岐も可愛いですけど、柊の方が可愛いに決まってます」
「あの胡散臭い笑いを顔に始終貼り付けているような奴のどこがそんなに良いんだか…頭が涌いているんじゃないのか、風早?」

回廊の先、腕を組んで眼前の長身を睨み据えている忍人と、そんな忍人を険しい表情で見下ろす風早。
青白い火花が見えない事の方が不思議な程の異常な場の雰囲気に、千尋は開いた口が塞がらない。何、この状況?
声もなく振り返った先で、那岐が真っ赤になって震えているのが目に入った。そして全くの無表情で口論する二人を冷たく見遣る柊。

「そう言えば忍人は柊に嫌われていましたっけ。昔からそうやって噛み付いているから悪いんですよ。貴方の好きな那岐の爪の垢でも煎じて飲んで百分の一でも良いから可愛さを分けて貰ったらどうだい?そうしたら柊も忍人に心から笑ってくれますよ」
「虫酸が走るな。嫌われていて結構。お前も可愛い柊とやらを見習って、その鬱陶しいお節介癖を直したらどうだ?下手に父親面をするから那岐に邪険にされるんだ」
「本当にかったい頭ですねえ……石頭」
「お前に言われたくないな、豆腐頭…」

千尋はちょっぴり後悔した。うん。どうしよう――――下らない。
見なかった聞かなかった事にして書庫に篭ろうか?
そんな甘い考えが頭を過ぎったたが、千尋はすんでのところで思い留まった。頭をぶんぶん振って考えを散らす。

(内容が下らな過ぎて、二人の所為で他の皆の士気が下がるのだけは防がなきゃ!)

取り敢えず喧嘩の内容は棚上げしよう。千尋は力強く頷いた。
が、どう止めたら良いやら皆目検討がつかない。縋るように見遣った背後の二人は、その視線に、ふふ、と遠くを見つめて微笑した。

「柊…………」
「その先は言わないで下さいませんか?…私も今、激しく頭が痛いもので…」

同感、と那岐は頭を掻いた。そして徐にじゃらりと勾玉の連なった数珠を手に取る。柊もまた髪を鬱陶しげに掻き梳いて、ぱんぱんと何かを払うような仕草をした。気付いた時には既にその手の中に黒光りする暗器が握り込まれている。
二人は、よし、と静かに頷き合うと、清々しいまでの笑顔を千尋に向けた。

「千尋は先に勉強に戻っていなよ」
「直ぐに済みますから」

千尋は、故意に二人から瞳を逸らした。うん、とか細く返事を返し、次いで晴れやかに笑った。

「やり過ぎは禁物よ?」

善処する、と頷いた二人に促され、千尋はぴったりと書庫の扉を閉めた。
視線を上下左右にさ迷わせた後、うん、と一つ頷いた。

「勉強、勉強ーっと」

そそくさと奥の本棚へと逃げ出した千尋に、もう言い争う声は聞こえなかった。



拍手ありがとうございましたー!
はい!馬鹿ばっかで大変失礼致しました!
いやはや、これに羽張彦が交じらなくて本当に良かった!三人の性格上収集着かなくなりますものね。
これからもこんな人達ですが宜しくお願い致します。


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