恭しく手を取られた三好は困ったように自分の手の甲へと視線を落とした。
手を取る無骨な指をゆっくりと目で追うと、やけに真剣な顔がそこにあった。
「静雄さん……?」
返事は無い。
静雄は黙りこんだままじっと三好の手を見つめている。
三好がその表情を伺っていることにも気付いていないようだ。
「あの……」
再び視線を手の甲に戻し、三好は眉尻を下げる。
静雄は何がしたいのか、自分はどうすればいいのか。
嬉しいような恥ずかしいような、そんな気持ちももちろんあるが、それ以上に疑問が勝る。
はたして静雄は何を考えているのか。
「ちいせぇ手だな」
ぽつりと独り言のように静雄は呟く。
もちろん静雄と比べれば大人と子供だ。
サイズが違って当然だろう。
それがどうだと言うのか。
「……っ」
再三問いかけようとして、三好は顔を少し歪めた。
一回り大きな静雄の手が三好の指を包み込み、僅かに力をこめたからだ。
それはそれは、ごく僅かの力だった。
しかしその力は徐々に強くなっていく。
ゆっくりと蟻を潰すような、そんな表現が似合うかもしれない。
そして静雄の力の最大値が常人とは遥かに違うということを三好は知っていた。
今はこの程度の力でも、もし静雄が本気で三好の手を握るつもりなら、三好の手はどうなってもおかしくないのだ。
「静雄さん」
それでも三好は微笑みを浮かべていた。
初めて静雄が三好の手から顔へと視線を移す。
「違ったらごめんなさい。
でも」
三好は取られたままの右手の上に自身の左手を重ねる。
そのまま静雄の手を一緒に撫でるようにして、愛おしそうに言った。
「女々しいと笑われるかもしれません。
でも僕の指を潰すなら、左手……特に薬指にしてもらえませんか」
うっとりした表情を見て、今度は静雄が困ったような顔をした。
同時に三好の右手を握る力が緩められていく。
それを感じた三好は、何故か残念そうに溜め息を吐いた。
「……俺がそんなことすると思うか?」
「しないです。
静雄さんは優しいですから」
次は静雄が反応に困る番だ。
対する三好はけろりとして笑っている。
その顔は先程の言葉は冗談だったと言わんばかりだ。
はたしてどちらが本心なのか。
他の人間であれば頭を悩ませたかもしれないが、そんなことを考えるのは静雄の性分にあわない。
「っ!?」
静雄は何かを考えるより先に、今度は三好の左手首を掴んだ。
そして僅かの躊躇もなく、自分の方へと引き寄せ、薬指に噛みついた。
右手に感じていたものとは違う鋭い痛みに、三好は身体を強ばらせる。
その緊張が伝わったのだろう、すぐに静雄は手を離した。
「……悪ぃ、痛かったか?」
静雄とて、決して食いちぎるつもりで噛みついたわけではない。
血も出ておらず、赤く歯形が残っただけだ。
「いえ、ありがとうございます……」
三好は呆けた顔でそれを確認すると、間抜けにも礼を述べた。