私は29歳、独身で女だ。生まれてからずっと間違いなく女だった。それは今でもそうだ。
そんな私だが、ある日突然、『人生で一度ぐらいモテ期があってもいいはず』と思い立ち、モテるためにその後の人生を謳歌するために、転職した。
狙ったのは98%が男性の職場。
流石というか、確かにモテた。モテモテ(死語)だった。
モテモテだったが、オジサンとかオジサンとか、いっそおじいさんとか、そんな人ばかりにモテモテだった。
若い男はたくさんいるのに……!
あっちを向いてもこっちを向いても若い男しか目に付かないのにっ!
なぜっ??
そして一番信じられないのが、たった2%の稀少で貴重な女子にも、モテモテだと言うことだろうか。
私以外の女子は2名。
二人とも私よりずっと若くて非常に可愛いのだ。
どんなふうに可愛いかというと、一人はアイドル顔負けのきらきらした目の大きい美少女でもう一人はその子よりも顔形が整っていてビスクドールのような美貌に妖精のような儚げな雰囲気を纏っている。
そんなキラッキラの美少女(年齢的には美女のはずなのだが、どう見ても10代にしか見えない!!)二人がいちゃいちゃしている様を男どもはうっとりと鑑賞しているのだ。果敢にチャレンジする者は残念なほど皆無。
まあ、別世界の人間って男性諸君も肌で感じるものがあるのかも知れないけど。
「おお~~、サナちゃん、サナちゃん。一緒にお茶飲みながら鑑賞しようよ。エリカちゃんがイズミちゃんの髪の毛結わえてるよ。可愛いねぇ……」
サナちゃんとは私のことだ。一見今風の名前に聞こえるが、早苗という古風な名前なので逆に現代では意外と目立つ。恵梨香はアイドル風の女子で、依澄が超絶美少女だ。
昼休みにお互いの髪を結いあったり、爪の手入れをしあったりしていちゃいちゃしている様を至福のモノでも見るかのようにオジサン達が鑑賞しては微笑まし気な顔で二人を見守っているのだ。そこに何故か私は呼ばれ、一緒に鑑賞させられ、同意を求められるのだ。
「や。一応私も女子なんで、女子を鑑賞する趣味は無いんですよ。確かに二人とも女から見ても可愛いですけどねー」
ここの人事は顔で採用を決めたんじゃないかと思わずにはいられないラインナップだ。
まあ、この二人に比べればずっと年齢は上なのに私の女子力は皆無に近いな。ていうか、いっそ男と言い切った方が潔いかもしれない。女子である事にしがみつく意味がない。――と、思うほどに。
「サナちゃぁ~ん、こっちこっち」
語尾にハートマークがつきそうなぐらいに甘えた声で呼ばれて、私はしぶしぶと、いちゃいちゃしている女子2名の元へと足を運んだ。比較されるのが辛いからこの女子二人とは絡みたくない。
「イズミちゃん、可愛くなったでしょ?? どう??」
緩く巻いた髪をゆるく編みこんで後ろで丸くお団子にしている。確かに可愛い。が、しかし社会人としてどうなの、それ。
「あー、依澄さんなら丸坊主でも可愛いと思うけどね」
愛想悪く、正直な気持ちを答える。丸坊主でもビスクドールは美形だよ。
「いや~ん、サナちゃんに褒められちゃったvv」
嬉しそうに喜ぶビスクドールにどっと疲れる。
ここだけの話、恵梨香と依澄はビアンだ。
そう告白された。そして二人とも私が好きだって……。
「ね、サナちゃん、エリカと付き合って?」
「え、どこに??」
「もう、とぼけちゃって!」
恵梨香がつんつんと、私をつっつく。
「ダメ、サナちゃんはイズミと付き合うのよね??」
依澄がぎゅううっと私にしがみつく。
「イズミちゃん、ずるーい!」
今度は負けじと恵梨香が私に抱きついてきて、サンドイッチ状態だ。
「いいなー、サナちゃん、俺達も混ぜてくれよー!」
ちょっと離れたところからオジサン達のはやし立てる声が沸く。
おかしい、ここって会社だよな。
居酒屋とか、ダイニング・バーとかじゃないよね。ていうか、皆素面だよね?? これをおかしいって思わない日常ってどうなの??
いかんせん、毎日がこんな感じなのだ。
確かにモテ期というものはあるのかも知れない。かも知れない。でも、自分の対象外の相手からもてても何にもならないんだけど。
オジサンやオジサンや、おじいさんとか。美少女とか美少女とか。
まあ、オジサンよりは美少女の方が全然マシだけどね。
美少女同士が百合百合しくいちゃいちゃしてるのはオジサンじゃなくても和むけどね。
なんで、その二人が相手に私を選ぶかな?
私はこのモテ期なるものが早く終わることを毎日祈らずにはいられなかった。
END