騎士と軍師


 キン、と硬い音を残して刃が漆黒の鞘に収まった。傾きかけた陽の光を受けてするどく煌めく残像をまぶしい気持ちで見つめていると、緑の瞳がこちらを見た。

「何の用だ」
「用はねーよ? 通りかかっただけ」

 明るい口調に眉を跳ねさせ、騎士は――緑間は高尾をにらみつける。

「お前が何の思惑もなく、こんなところまで来るわけがないのだよ」
「ぶっは、何ソレ、ひっでーの。オレだって散歩くらいするっつの」
「どうだかな。この国のあらゆる策略と陰謀をあやつる黒い鷹……自分がそう呼ばれていることを、まさか知らないわけではあるまい」
「その称号みてーの恥ずかしいからやめてくんない?」

 軍師なのだから、策略や陰謀と近しいのはしかたがない。そう思うけれど、このどこまでもまっすぐな男にはそれがわからないのかもしれない。
 騎士は自らの力と忠誠心をもって戦うものだ。暗い思惑や嘘にまみれた会話、腹のうちを探りあう駆け引きや犠牲を伴う取引なんて、緑間には似合わない。剣と忠誠と正義と信仰と。単純な言葉で示せるものだけ、身にまとっていてほしい。

「こんな時間まで訓練とは、がんばるねえ」
 腰に佩いた剣を指さす。流れる汗をぬぐいながら、当然だと緑間は短く答えた。
「オレの剣は、陛下と民のためにある。それを守るための人事は惜しまないのだよ」
「おーおーカッコいいことで」
「お前だって、そうだろう。高尾」
「へ?」
「お前が日夜、大臣たちとくだらぬやりとりを続けているのは陛下とこの国を守るためだろう」
「あー……まあ、な」

 これだから緑間は嫌だ。高尾が心の奥で大事にしまっている感情を、そんなふうに簡単に取り出してしまうのだから。
 ぽりぽりと首のうしろを掻いて恥ずかしいのをやりすごすと、緑間が口の端をつりあげる。笑ったのだと気づくのに、すこし時間がかかった。
 この男が寸分の迷いなく戦えるために、あらゆる裏仕事をひきうける。
 その覚悟だけは緑間に見つけ出されてしまわないように、高尾はこっそり息をはく。自分のために高尾が剣を捨てた、なんて思われるのだけは嫌だった。

「行くぞ。日が暮れる」
「あ、待てよ」

 陽の色を裏に隠した濃緑のマントをひるがえす背中を、慌てて追いかける。そっけないように見える足取りが実は高尾を待っていることに気づき、うれしくなって笑えば緑間もすこしだけ頬をゆるめた。



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