社会人シリーズ1
鳳長太郎 同僚編



うとうととしていた。
今日の飲み会で少しお酒を飲み過ぎたせいかもしれない。
そんな今の私にはこの電車の揺れは、何だか反則だ。

「お降りになるお客様は‥」

そんな駅員さんの声も遠くで聞こえていた。

降りるはずの駅につく頃にはぐっすり熟睡していたせいで、乗り過ごしてしまったのに気付いたのは‥

「ねぇ、次終点だけど‥そろそろ降りない?」

耳元で、声がした。聞き慣れた幼なじみ。長太郎の声。

「ん‥ちょ‥た‥?」

「そんな可愛い声出したら、俺の家まで連れてっちゃうよ?」

夢心地のままでいると、ふわりと体が浮いた。

「ん‥」

「それじゃ、行こうか」












朝日が眩しい。もう朝かと目を開けると、隣に見慣れた顔があった。

「えぇぇ!?」

「ん‥あ、おはよ‥」

「ちょ‥な、何でアンタ裸なのよ!!」

「え?下は履いてるよ」

上半身裸の長太郎が不思議そうに首を傾げる。

「それに、君が脱がしたんだろ?」

「え」

「昨日はあんなに可愛かったのに‥」

長太郎が私を指差す。はっと自分を見ると下着姿の私。

「どういう‥事‥」

「ははっ、そんなに混乱した顔しないでよ。」

突然笑いだした長太郎をぽかんと見る私。

「昨日お酒のみすぎて電車のなかで寝たろ?」

「うん」

「その後、起きなかったから連れて帰ったんだけど‥途中で君、気分悪くなったみたいで‥」

「もしかして‥」

恥ずかしくて顔が熱くなる。おそらく、吐いてしまったのだろう。

「朝ご飯用意してくるから、君はそこで待ってて?」

いつのまにか服を着た長太郎が、そう言うと部屋を出た。

本気で驚いた‥記憶がないから不安なのかどこか違和感を感じる。
だいたい、一緒のベッドに寝なくてもよかったのではないか。

「‥。」

ふと、ベッド脇の鏡が目に入り、まじまじと覗き込んでしまった。

「あ、れ‥?」

胸元に、赤いあざ?昨日までこんなものなかったはずだ。よく見ると、首筋にも一つ、赤い‥

「えぇ!?な、ちょっ‥。」

頭のなかが混乱する。さっきの様子じゃ長太郎に聞いても無駄だろう。

「‥ち、長太郎がわからない‥」

もう酒は飲まないと固く誓った私。真実は彼のみが知る。


執筆・公開 07.06.09



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