「きちゅ」




己を見上げてくる小さな小さな子供は、蒼い瞳をきらきらと輝かさせてぽつりと漏らす。
その言葉に、カカシは抱き上げようとして伸ばした腕はそのままに思わず考え込んでしまった。






(「きちゅ」・・・・?)


幼児の舌足らずな喋りでは、言葉を聞き取りにくい。
しかしこの音から予測できる言葉など、一つしかなくて。




(・・・・それって『キス』を強請られているということ、デショウカ?)


脳内お花畑状態である。



見上げてくるナルトの蒼い瞳が潤んで見える。唇もぷくりとして赤く染まっている。
確かにそれがどこぞの女ならばキスを強請られていると取っても何の問題もないだろう。
しかし、今目の前に存在しているのはまだ3つに満たない幼児だ。
色恋沙汰の「い」の字さえ分からない、というか読めもしないようなお子様だ。
男と女の違いさえ理解していまい。
そんな幼子がおねだりなんてしてくるわけがない。
いや、しかしよくよく考えれば自分はナルトにおはようのキスやおやすみのキスやいってきますのキスや・・・(延々と続く)
をしているではないか。四六時中しまくっている。
ナルトもそれなりに喜んでいるよう(な気がする)であったが、いつも自分からばかりだったのだ。
それがとうとうナルトから欲しがってくれるようになったのか!!なんと素晴らしい!!
いやいや、おかえりのちゅうが習慣化していて、「ただいま〜ナルト。いい子にしてた?」と暗部の任務から
帰ってきたカカシに対して「いつものこと」とキスをしようとしているのかもしれない。
それはそれで習慣化するということはいつだってキスしてOKという状態なわけだから喜ばしい!
いや、でも・・・



あーだこーだとうだうだ考えてはみるものの、美味しそうな獲物を前にした獣のように
ごくりと喉を鳴らしてしまう。
固まっていたはずの腕はそろりそろりと子供細い腰へと伸び。
ちらりと子供の背後にあるベッドを視線に入れてしまう。



(だって、好きなんだもん。)


この小さな生き物が。その存在が。

好き過ぎてどうにかなってしまいそうなくらいに。
独り占めしてしまいたいくらいに。
今すぐに食べてしまいたいくらいに。



我慢できなくなって伸ばしていた手で子供の腰をぐっと引き寄せる。
幼児とそろそろ大人になってきた自分。
膝立ちになってはいるものの、それでもナルトの頭は自分の胸までもない。
ナルトの顎を持ち上げ上向きにさせて。自分はかがむように背を丸めて。

そうっと。
そうっと。


「・・・ナルト・・・」










「何をしておる、カカシ。」




突然聞こえた声にびくりと身体を揺らす。
慌てて振り返れば、現在ナルトを育てている三代目火影が腕を組み仁王立ち状態の姿が目に映った。
三代目の目は完璧に据わっている。


「あ〜・・・、おかえりなさいのキスですかねぇ。ハハ。」

「『ですかねぇ・・・』ではないは!この色ボケが!!」


えぇ、すみませんね。ナルトだから特別なんです。

なんて、こんな稚い幼児に不埒なことをしようとしていたのは明らかなので言えるはずもなく、口を噤むしかない。
でもキスを強請ってきたのはナルトの方なのだ。
言い訳をするようにそれを伝えれば、三代目は「あぁ。」と一つ頷く。



「『きちゅ』とは『きつね』のことじゃ。まだ上手く言えんみたいでのぉ。」




・・・・きつね?


どっかに狐がいたっけ?しかしナルトはオレをみて「きちゅ」といったはずだ。
辺りを不思議そうに見渡せば、三代目はカカシを指さす。

そういえば、暗部の任務から直行してきたこともあって任務中に使っていた狐の面をそのまま着けていた。
狐とはこの面を見ていったのか。

慌てて外せば、現れた縦に走る傷跡と相変わらずの口布の見知った男の顔。
それを見て、ナルトは「あれ?」と首を傾げた。



「・・・?かぁち?」



・・・なんでそんな不思議そうな顔しているんでしょうか?
もしかして、オレって分かっていなかった・・・?



カカシの顔がすうっと青くなる。



確かに。
確かに顔が隠れているのだから誰だかわかりにくいかもしれないけれど
この銀髪の髪とか、ナルトを呼ぶ声とかで分かってくれるもんじゃないの?
というか、分かっていなかったというのならば。


「ナルトからキスを欲しがってくれた!」なんてのも全くの妄想だったということで。











「・・・・はぁ。」

部屋の隅で膝を抱えて涙にくれる只今売り出し中のエリート上忍と、
それを訳が分からないながらも宥めようとする幼子の姿に
三代目は大きな大きな溜息を零した。



















接吻 1/10 「きちゅ」














素材提供:月影ロジック 様



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