真島社長が、キスをするような人だとは、わたしは、思ってもみなかった。

というのは、あの人は捉えどころがない人だけれども、恋愛面においては完全に興味がなさそうだと確信していたし……たとえ女性をはべらせても、それは彼が演出として、エンターテイナーとして、その役割を果たすためにしていることで、彼の態度に女好きな一面や下心を感じたことは、一度たりともなかった。





だから社長がいくら変な人だろうと、戦闘狂だろうと、わたしはある意味安心しきっていたのだ。





だけど、びっくりしたのはキスをされたことではなかった、のかも。

ゆうべの出来事を思い返してみるたびに、胸がざわついて仕方ない。



だって、あんな目、するんだ。



唇の感触や温度よりも、

キスの後の瞳が、戦うときみたいに熱を帯びていて、それでいて悲しそうで。



目に焼き付いて離れなかった。



息をするのもためらわれた。





犬に噛まれたと思って忘れよう…と思ったり、

暗がりの中で射抜いた、鋭い隻眼が胸に爪を立てて、だめ、忘れられない、と思ったり、

どうしよう…とばかり考えている。





社長が出勤してきたら、

それでキスのことを知らんぷりしていたら、

聞いてみようか。



なぜあんなことしたのかって。



きっと社長は気怠げに手を振って、魔が差したんやすまんな~とか、

急にんーなこと言うなやとか、

隙だらけやからや気ぃ付けなあかんやろとか、

いつもみたいに軽口叩いて、本当のことを教えてくれない。





でももし、そうではなかったら?



キスの後と同じ瞳が、またわたしを突き刺して、低い声で理由を言ってくれたら?

あのときと同じく腕を引き寄せられて、冷たいけれどやわらかなくちびるに、舐めるようにくちびるを奪われたら?

そうしたら、ますます呆然としてしまう。

ただでさえ、胸や、腕や、くちびるが、やけどに似た熱と痛みを帯びているのに。





あと少しで社長が部屋にやって来る。

かつん、かつん、と大股で歩く例の足音が、通路から近づいてくるのが聞こえてくる。



どうしよう。どんな顔をすればいいのかわからない。動揺して、何度も髪を耳に掛け直している。顔が赤いし、指先は震えてる。



かつ、かつ、かつ、



こつん。



どうしよう、どうしよう。

頭がうまくまわらない。





わかるのはただ、忘れられなくなってしまった、もはや手の施しようもなく、ということだけだ。

















あと1000文字。