【ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし。】




大きな椅子に腰掛け、ぷらんぷらんと足を動かしながら、目の前に広がる光景に溜息をつく。

そして、ちょっと失敗したかな、なんて思う。

確かに出された紅茶はとてつもなく美味かったし、お茶請けにと出されたクッキーやビスケット、ケーキも絶品だった。

やっぱり、もてなされるって最高にいい気分だなぁなんて思ったし、ここに居着いてしまおうかとさえ思うほど大切に扱われた。そこまでは良かった。




ふぅ、もう1度溜息をつく。




やっぱり、家出なんかしなければ良かった。それもこれもあの帽子屋のせいだ。あと猫!

そう思って、アリスはほんの数十分前の自分にそれまでで1番大きな息を吐き出したのだった。










「ねぇ、アリスちゃん。ボクずーっと思ってたことがあるんだけど聞いてもいいかな?」







許可無く無断で正面に居座る猫が、なんの脈略も無く楽しそうに微笑みながら言葉を発した。だから俺も問う。

「お前、いつからこの家に居座れるようになったんだよ。帽子屋に殺されるぞ」

こぽこぽ。自分用にと紅茶を注ぐ。

それを横から伸びてきた手に攫われて、睨み付けた。

「あんたもあんただ。猫がいるのに追い出さなくていいのかよ。設定はどうした、設定は」

折角の風味も台無しなほどに液体に砂糖を落とす帽子屋に舌打ちをして、新たにもう1杯。

「ありがと、アリスちゃん。アリスちゃんの入れる紅茶は美味しいよねぇ帽子屋さん」

それすらも馬鹿猫に横取りされて、あーくそっ!と頬杖を付いた。

「あれ、アリスちゃん飲まないの?」

「飲む気失せた。つーか、質問に答えろよ」

バン、とテーブルを叩く。乗ってたカップが音を立てる。

それを怪訝そうに見つめ、帽子屋がずずずと音を立てて紅茶を啜った。






「アリスが作ろうがなんだろうが、大抵の紅茶は美味いように出来てるんだよ。ま、及第点ってトコロだな」






「アンタに聞いてねぇし。や、聞いたけど。つーか何だよ。俺の質問は全てランスルーかよ。ふざけるなよ」






だいたいそりゃあアンタの紅茶は誰が作ったって変わらないだろうよ。砂糖の味しかしねぇんだから!!

拳をわなわなと震わせるアリスの肩を叩き、猫は笑う。

「まぁまぁ、アリスちゃん。嫉妬は良くないよ?安心して。ボクの作った紅茶は絶対に飲んでくれないだろうから」

ね、帽子屋さん?と振り返る。返事は無い。

……だから何を安心しろというのだろうか、この馬鹿猫は。

っていうか。俺的には帽子屋と猫がいちゃついてでもくれればあらぬ誤解とかそういうのに巻き込まれなくて清々する訳で。



「ん、もうどうでもいいわ。俺なんか気にせずに2人で楽しんでくれよ」



設定もなんも度返しで、どうぞ好きにやってくれ。

最近考案した、【耳に入れれば何にも聞こえない君】またの名を【脱脂綿とティッシュのコラボレーション】を詰めて、読みかけの本を開いた。

堂々と猫が入ってくるようになってからというもの、ゆっくり読書も楽しめない。

せっかく物語も佳境に入って、あ~もうヤメテぇ~ん、な展開だというのに邪魔される訳で……盛り上がりも一気に欠ける。






とんとん。とんとん。






肩を叩かれるけど、無視。






とんとん。とんとん。とんとん。とんとん。






…………。





「何だよ」

耳栓を外して、ギン、と睨み付ければ不機嫌そうな帽子屋と楽しそうな猫の顔。

「・・・な、何だよ」

余りに距離感が近くて身を引くと、その間を詰めるようにティーカップが2つ突き出された。






「おいアリス。お代わり。とっとと動け、居候が」

「あははー、帽子屋さんってば酷いなぁ。あ、ボクにももう1杯お願いしてもいいかな?」






~~~~~~~~~!!!!!






「今度こそマジで家出してやる!!こんな家、出てってやるからな!!いーか!出てってやるんだからなっ!!」

こんちくしょう!とボヤキながら、でも甲斐甲斐しく2人分の紅茶を注いでから飛び出した。

背中にかかる言葉は聞かない振り。

バタンと扉に八つ当たりして、淀んだ空の下、1人競歩大会を主催して。








「ねー帽子屋さん?」
「ん」
「アリスちゃんってさ。大概にして……ツンデレだよね」
「俺の躾が良いんだよ。育児放棄した馬鹿猫が」
「……いやーん」








「で、だ。俺を暫く置いてくれ」

「……何が【で】なのかさっぱり理解しかねますが……どうぞ?此処はアナタの城です。女王陛下」






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