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「わたしね!おおきくなったら、りつくんのおよめさんになるの!」
『きょうちゃん見て!』とにこにこと笑いながらかなでが響也に見せたのは、指輪の形をしたキャンディー。
宝石が飴になっているタイプの物だ。
「それ、どうしたんだよ?」
響也は眉を潜めて、かなでの指に嵌まっているキャンディーを見た。
「りつくんがくれたの!ぼくのおよめさんになってくださいって!」
愛しそうに指輪のキャンディーを見つめるかなで。
かなでの幸せそうな表情と反比例するかの様に、響也の眉がつり上がって行った。
りつのばか、と響也は心の中で毒づく。
かなでを嫁に貰うのは自分なのだ、律なんかに譲ってやるものか。
「それ、すてろよ。」
響也はかなでの指に嵌まっているキャンディーを指差して言う。
「や!きょうちゃん、なんでそんなこというの?」
かなではいやいやと首を振る。
「かなでは、おれのおよめさんになるんだ!だから、おれがゆびわをかってやる。」
「でも、せっかくりつくんにもらったんだよ。そんなことできないよ。」
「かなではおれのおよめさんになるのが、いやなのか?」
自分よりも兄が良い、とかなでに言われている様で、響也の語気が荒くなって行く。
「きょうちゃんのことだいすきだから、およめさんになるの、いやじゃないよ。」
「ほんとうか?」
少しだけ明るくなる響也の表情。
「うん。」
かなでがこくりと頷けば、響也の表情がみるみる明るくなった。
「じゃあ、おれのおよめさんになってください。」
かなでに向かって右手を差し出す響也。
「はい。」
かなではにっこり笑うと差し出された手を握る。
「なら、それはずせよ。かなではおれとけっこんするんだから、ほかのおとこからもらった ゆびわなんてしてちゃだめだ。」
『捨てろ』とは言われなかった事に、少しほっとしながら指に嵌めていたキャンディーを外すかなで。
「かなで、おおきくなったらりつからもらったゆびわよりも、もっとすごいやつ、かってやるからな!」
「ほんとうに?」
「うん。」
「じゃあ、やくそくね!」
そう言って笑ったかなでの顔は、響也が今まで見た中で一番綺麗なものだった。


「…って話、覚えてる?」
くすくすと笑うかなでの隣には、真っ赤になっている響也。
子供の頃のアルバムを2人で見ていたら、かなでが『そう言えばこんな事があったよね』と語り出した のだった。
響也もその事について覚えていたが、改めて言われるとかなり恥ずかしい。
「響也って本当にブラコンだよね。」
「仕方ねぇだろう。かなでを律に取られちまうかと思って…!」
ついつい言ってしまった自分の本音に、響也の顔がこれ以上ない程に赤くなった。
「大丈夫だよ。私はずっと、響也の隣にいるから。そうだ響也!あの時の言葉がまた聞きたいな。」
「あの時の言葉?」
「うん、『お嫁さんになって下さい』って言葉。」
「仕方ねぇな…。一回しか言わないぞ。」
「判った。」
にこにこと自分の顔を見つめて言うかなで。
響也はすうっと息を吐く。
「俺のお嫁さんに、なって下さい。」
あの時と同じく右手をかなでに差し出しながらはっきりと告げる。
「はい、喜んで。」
かなでもまた、響也の右手に自分のそれを重ねると、彼の大きな手を握った。
あの時と同じ様に、とても綺麗な笑みを浮かべて。

もう恋は始まっていた‏


Title by.確かに恋だった



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