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以下、お正月限定の格付けチェックネタです。
全5話構成予定で、今のところ4話までアップしています(早めに残りも書きあげます)




英国紳士格付けチェック!2021ー①



「世界観総無視!一流の英国紳士をランク付けしちゃおう、『憂国のモリアーティ』英国紳士格付けチェック〜!」
「おい、テンション大丈夫かヘルダー」

ドンドンぱふぱふ、ヒューヒュー!という効果音すら自ら口にして、とても気分が乗っている盲目の技師たるヘルダーはこの上なく楽しそうである。
そんな同志を微笑ましく見守るのはモリアーティ家の長男と次男のみで、末弟は普段通りその顔に表情を乗せておらず、フレッドは何も反応を見せていない。
ボンドはいつも通りニコニコと微笑むばかりだ。
モランだけが律儀に突っ込んでくれたがヘルダーは意にも介さず、ウキウキしながら現況を説明していった。

「さぁここに集まって頂いたのは一流の紳士たる皆さんです!これから皆さんには、一流ならば正解して当然の問題に挑戦していただきます!」
「それぞれのテーマには最高級と平々凡々なものを用意している。そのうち最高級である方を選んでいく、というシステムだ」
「何でお前がそこにいるんだよ、兄貴!」

ヘルダーの言葉を引き継ぐように話を続けたのはマイクロフトである。
その佇まいは既に一流の英国紳士たる風格が垣間見えるようだった。

「ふっ。知れたこと、今回はこの私とヘルダーが司会兼進行役を仰せつかっているからだよ、シャーリー」
「クソッ…大体なんなんだよ、この場所は」
「我がモリアーティ家が総力をあげて作らせた、格付けチェックのためだけの空間に何か不満でも?シャーロック・ホームズ」
「…アルバート・ジェームズ・モリアーティ…!」
「ふふ、せっかくの機会です。日頃のわだかまりを忘れ、みんなで楽しむというのも一興ですよ」
「…リアム、お前…」

不満げな顔を隠さずモリアーティ家の代表に顔を向けるシャーロックは、チームのトップである二人に免じて渋々引き下がる。
現在この空間には司会兼進行役であるヘルダーとマイクロフトが部屋の中央に位置しており、シャーロック含め他の人間は見るからに上質な椅子に腰掛けている状態だ。
そんな中、アルバートにだけいかにも座り心地の良さそうなソファが充てがわれているのは何故なんだという疑問を抱くのは、不思議なことにこの空間ではシャーロックしかいなかった。
だがその疑問も口にしなければ存在しないことと同じで、堂々たるアルバートとその近くに佇むウィリアムとルイスの迫力がシャーロックの口を閉ざしてしまったのである。

「この格付けチェック、二人ペアになって代表一人が問題に挑戦していただきます。チャレンジしている人間は別室で己と対話しながら最高級を選び、その様子を他の人達と一緒にここでモニター越しに見ていくというものです」
「尚、問題は六つ。進行の都合上、ペアは私の独断で決めさせてもらったのでご了承願いたい」
「ちなみに今自分の隣にいる人があなたのペアですよ〜二人力を合わせて、一流紳士の称号を目指しましょう!」

ヘルダーとマイクロフトの声を聞き、それぞれ隣に座る人間を改めて確認する。
アルバートの隣にはモラン、ウィリアムの隣にはルイス、フレッドの隣にはボンド、シャーロックの隣にはジョンがいた。

「モラン大佐、無様な姿は見せないように」
「うるせーよ。お前こそ足引っ張んじゃねぇぞ」

「よろしくね、ルイス」
「兄さんの足を引っ張らないよう頑張ります!」

「頑張りましょう、ボンドさん」
「目指すは一流、だね」

「ジョン!やるからにはリアムには負けねぇからな!兄貴にも一泡吹かせてやる!」
「おぉ、張り切っているなシャーロック。勿論だ、頑張ろう!」

それぞれのパートナーと意識を一つにし、八人の紳士達は程度に差はあれやる気に満ち満ちていた。
何しろ英国人にとって紳士かどうかは己の矜持に関わる事案である。
英国人であるならば紳士であれ、紳士ならずは英国の地に足を踏み入れるべからず。
そんな格言があったりなかったりするほどの国なのだ。
階級社会とは関係なく、紳士であるかどうかは英国に住まう人間にとっての重要事項なのである。
唯一この場でそう考えていないのはシャーロック・ホームズくらいだろうか。
彼はライバルであるウィリアムと目の上のたんこぶに他ならないマイクロフトへの対抗心故に燃えている。
当然それを見抜いている司会兼進行役のマイクロフトは淡々と注意事項を発表した。

「一流に相応しくない平々凡々なものを選んだ場合、今座っている椅子のランクは落ち、靴は没収、最終的にはモニター上に姿を一切映さないことになるので覚悟しておくように」
「は?」
「特にシャーリー、お前は目先のことに囚われ過ぎて選択を見誤る可能性が高い。無様な選択をしてみろ、私の権限で不正解一回でその姿を消してやる」
「はぁ!?」
「ちょ、マイクロフトさんそれはちょっと…!」
「ワトソンさん、健闘を祈っていますよ」

マイクロフトからの忠告を聞いて、いわゆるホームズ陣営は中々盛り上がっていた。
一方的に噛み付くシャーロックの声をBGMに、モリアーティ陣営は各々気持ちを高め合うように声をかけている。

「一流の称号はウィリアム兄さんとアルバート兄様にこそ相応しいものです。本当ならお二人がペアを組むべきなのでしょうが、選ばれたのは僕とモランさん…モランさん、兄様の足を引っ張らないようにしてくださいね!」
「わーかってるつーの。お前もやる気が空回りして妙な回答すんじゃねぇぞ」
「モランの言うことにも一理あるね。ルイス、あまり気負わず僕と一緒に楽しもうか」
「はい。ですが、兄さんの足手纏いにはならないよう頑張ります」
「ふふ、ルイスくんはウィルくんとアルくんこそ一流に相応しいと考えているみたいだね」
「…まぁ、事実そうですから」
「でも余興みたいなものなんだから、僕達が二人の上をいくというのも面白いよね」
「やるからには負けたくありません」
「ほう、ボンドもフレッドもやる気だな。面白いことになりそうだ」

モリアーティ陣営の中で最もやる気に満ちているのはルイスのようだ。
ウィリアムとアルバートに一流の称号を与えるべく、二人をサポートすることに尽力しようとしている。
そんな彼らを虎視眈々と狙うのは陣営の中でも年若いボンドとフレッドで、こちらも中々野心に満ちているらしい。
面白くなってきたと、ヘルダーは聞こえる声と感じるざわめきでますます気分を高揚させて、この日のために作った新型のマイクを手に取った。



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