予想通り、にわか雨が通り過ぎたデパートの屋上広場に、俺たち以外の客の姿はなかった。
拡がった視界の先に見えるのは、ガーデンテーブルとチェアを忙しなく拭いて回るスタッフ数人
だけだ。
 雨粒を避けるように街中を走り回り、このデパートになだれ込んでホッとしたところで、まだ昼
飯を取っていないことを思い出した。昼時をとうに過ぎた時間帯だというのに、雨のせいかレス
トランフロアは人で溢れていて、辟易とした顔を隠しもしないアレクサンダーを引き連れてここ
へ来た。
 コイン式の遊具と売店があるここは、幼いころ両親に連れられて何度か立ち寄ったことがある。
しばらく来ない間にリニューアルしたのか、記憶よりもずいぶんとあか抜けたような気がするが、
まだ営業していてくれたことが何となくうれしい。
「オバレ」
「えっ」
 突然そんな単語をぽつりと呟くものだから、何事かと顔を見上げた。アレクサンダーの視線の
先を辿ると、逆さまに置かれたガーデンテーブルが目に入る。水色、紫、それから緑。
「活動休止だな」
「ずぶ濡れだからなぁ。休ませてやってくれよ」
 アレクサンダーの冗談に笑いながらそう返す。こいつもこんな冗談を言ってくれるようになった
んだなぁ。
「そのままずっと、俺の隣にいろ」
「は……ア、ハハ……」
 しみじみとさせてくれる間もなく、急に真剣な眼差しをこちらに向けてそんなことを言ってのける。
いつだってこいつとは真剣勝負だ。
 雨雲は何層にもなって、まだ頭の上を加速度を上げるように流れている。ときどき陽の光がス
ポットライトのように雲間を縫って差し込んで、周りの建物よりも少しだけ空に近い俺たちを照ら
していた。



20190428 tailleur/立花そう








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