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お礼文は安形と椿の短い短いお話みっつです。※各話ごとに完結で、続いていません。
(お題:web拍手のための小さな三題 / 『love is a moment』様より)


1.なみだひとつぶ


目の前のいびつな形の食べ物を、さてどうしたものかと安形が腕を組んで見ている。
やけに膨らんでカップから飛び出した生地を見る限り、それはきっと本来マフィンとなるものだったのだと思う。
少し焦げているのはチョコチップだろうか、煤のように見えなくもない。

「調理実習で作ったんですが、ぜひ会長にと」

悪気の無いその椿の目と口調に、一瞬騙されて口に運びそうになってしまった。
生徒会室にはやけに甘ったるい匂いが漂っていて、それだけで胸が焼けそうなほどだった。
とんでもない量の砂糖を使ったか、何かバニラエッセンス的なもののせいなのだろうか。
お菓子に全く興味の無い安形だったが、椿の好意を無碍にはできないと、
この状況をどうするべきなのかさっきから必死に考えを巡らせていた。
できれば食べずに回避したい。しかし可愛い後輩の好意を断るわけには――。

「じゃあよ、半分こしねーか?オレさっき昼飯食ったし」
「いえ、ボクは大丈夫です。これは会長に渡すために……」
「そうか、わかった」

はじめに差し出された時はいったい何の冗談かと思ったのだ。
例のTシャツといい、椿のそのあたりの感覚は他人より少しばかりかずれている。
それは百も承知であったが、まさかこのマフィンもそういった感覚のもと作られているのだろうか。

「……それにしても、すごい形だな」

安形が食べあぐねていると、椿の表情がみるみる曇っていき、双眸にうっすらと涙まで浮かべているではないか。
安形は慌てて、いやいや食うから、とその約マフィンを口に運んだ。
見た目よりひどい味ではない。ただ、甘い。びっくりするほど甘かった。
やはりチョコチップだったその黒い煤のようなものが、更に甘さを引き立てている。

「……」
「やっぱり美味しくないでしょうか」
「個性的な感じだ」

それを褒め言葉ととったのか、椿が嬉しそうな顔をして笑った。
その拍子にさっきの滲んだ涙が、頬に一筋こぼれ落ちていった。
せめてそれくらいの塩分がこのマフィンにも入っていたら、と残りのそれを横目に安形は思う。
それでも喜ぶ椿の顔を見れば結局は全部食べてしまうのだった。
昼寝時間も削ってしまうほどだなんて、結構重症だと安形は心中で呆れることしかできなかった。


(終)







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