『ええい!ノーコメントだ、ノーコメント!』


と、見るからに頭の固そうなオジサンが報道陣に怒鳴ったところで、その録画中継は終わった。
――というところだった。お風呂上りの私が、ぱっと付けたテレビ画面に映っていたものは。
そういえば最近、年金の無駄遣いやら政府の対応がどうだとか、そういう辛気臭いことが話題になっていたような気がする。そこまで興味はないから、詳しいことは知らないけど。

 「ノーコメントねぇ」

ベッドに腰を下ろした私は、濡れた髪をタオルでわしゃわしゃとしながら、その言葉の意味を考えていた。
別にやましいことがないんだったらはっきり違うって言えばいいのに。それとも何か後ろめたいことがあるから、否定できないのだろうか。
でもそれを素直に言うわけにもいかず、かと言って嘘を吐いても後々問題になるので、ノーコメントというコメントで返すしかなくて。つまり、事実上のイエスとほぼ変わらないと思うのは私だけなのかしらね?

なんて、自分にしてはちょっと珍しく小難しいことを考えていたら、いつの間にかそのことに関するアナウンサーの解説も終わっていた。
そしてニュースは終わりを迎え、明日の天気予報へと突入する。あ、いけないいけない。こうやってぼーっとしてるから、夕立のことなんかも聞き逃してしまうんだわ、きっと。
ということで今回はしっかりと我が愛すべき地元の天気を確認することに。一旦ドライヤーのスイッチを切って画面に注目すると、どこかで見たことのある女性2人がそこに並んでいた。

 『…ハイ!ですので、今週末から来週にかけて全国的に青空が広がり、とても暖かくなるでしょう!いや、少し暑いくらいかもしれません!』
 『きっと桜も喜んでいるでしょうね』
 『そう!まさに絶好のお花見日和と言えます!!』
 『皆さん、ぜひ満開の春を楽しんでくださいね』
 『では早速私たちもお花見しに行きましょう!すこ…小鍛冶プロ!!』
 『えっ?』
 『それでは皆さんよい週末をお過ごしください!』
 『えっ?』
 『お相手は、毎度お馴染みふくよかじゃない福与恒子と!』
 『す、すこやかじゃない小鍛冶健夜でお送りしました……いやこーこちゃん今はもう夜…』
 『じゃあ夜桜っ!』
 『あ…そう』

天気予報が終わった。…あー………ええと。その、ようは、晴れるのね。

 「それじゃ、久しぶりに羽を伸ばしに行こうかな…」

ゆっくり立ち上がった私は薄くカーテンを開け、遠くの方に小さく見える桜につぶやく。そうだ。どうせなら、誰かと一緒がいい。それならば、のんびり過ごせる人がいい。だとすると、春風が似合う人がいい。
そう思い、少しだけ考えてからケータイのアドレス帳を開いた。善は急げと、早速着信を回す。
ピリリリリ…… なかなか応じてくれない呼び出し音が微かな緊張をもたらし始めたその時、プツリと、その音が止んだ。

 『も、もしもし…?』

代わりに聞こえてきたのは、何とも頼りなさ気なか細い返答。今頃ケータイを必死に掴んでいるのだろうなと思うと、自然と笑みがこぼれた。

 『え、な、何…?』
 「ううん、あのね」

それじゃあ、電波の向こうですっかりテンパっている“彼女”を安心させるため、早速用件を告げることにしましょうか―――。






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