『月の涙。』のシリーズのようなそうでもないような。シュナルルギャグです。
 
兄の日
 
「――兄の日、ですか…?」
 ルルーシュは首をかしげながらたずね返した。
「……そうだよ。父の日や母の日があるのだから、兄の日があってもいいとは思わないかい? ルルーシュ」
 それに、シュナイゼルがにこやかに答える。
「…それじゃあ、別途に『姉の日』もないといけないことになりますね……。でも、わざわざそんなものを作る必要があるとは思えませんが」
「でも、親子間でも日ごろの感謝の気持ちを表す日があるのだから、兄弟間でもあってもいいと思うよ」
「――はぁ、日ごろの感謝の気持ちですか…」
 ルルーシュは世にも微妙な顔をした。父親と母親に思いっきり育児放棄をされて、Cの世界で消滅させたルルーシュにとってはかなり複雑な話題だ。
「まあ、あんな父親以前の駄目人間は放っておいて」
 シュナイゼルは思いっきり切って捨てた。
「…はあ」
 ルルーシュの方でも特に異議はないので流しておくことにする。
「つまり、我々皇族のような境遇の人間もいるということだよ。親がいなかったり、いたとしても残念な親だったりと、実に様々な理由で、親の代わりに兄弟が養育者だったりする場合もあるだろう。そうした場合、父母には感謝するための日があって、兄弟間ではないというのは色々問題だとは思わないかい?」
「…まあ、一理はありますね。しかし、そういうことを言っていると、きりがなくなるのでは、伯父伯母等に養育されている者もいるでしょうし、血が繋がっていなくても擬似親子関係を築いている関係もあるでしょう?」
「…まあ、そうだけれどね……。しかし、ナナリーやロロはどう思っているかな?」
「……え?」
「ルルーシュ……。ナナリーもロロもすばらしい子たちだよ、君が、愛情を持って育ててきたのだということがよく分かる……。しかし、『兄の日』がなければ、彼らはその感謝の気持ちをどう表せばいいというんだい? 彼らのためにも、『兄の日』を作らないかい?」
 それに、ルルーシュは黙り込んだ。
 ルルーシュが、ロロとナナリーの話題に弱いと知っての、シュナイゼルの話術だった。
(…ロロと、ナナリーが……)
 そう考えながら、ルルーシュはうっかり空想をする。
 
『お兄様、お兄様!』
『兄さん、兄さん!』
 右腕にナナリーが、左腕にロロがじゃれてくる。
『…どうしたんだ? ロロ、ナナリー?』
『お兄様のために、ケーキを焼いたんです! …その、お兄様のお口に合えばいいんですけど…』
 ナナリーは頬を染めながら言う。何とも愛らしい。
『僕も、兄さんのために、プレゼントを買ってきたんだ! 一生懸命選んだんだから、きっと気に入ってくれると思うんだ』
 ロロの笑顔も、思わず顔中にキスをしたくなるほどにかわいい。
『『だって、今日は“兄の日”だから!!』』
 
(…弟妹パラダイス……!)
 ルルーシュは、思わず妄想に浸りかけてしまった。
 美女に取り囲まれた妄想に浸る者はあっても、妹と弟に囲まれた妄想でここまで大喜びできるのは、この史上最強のシスコンブラコン兄ぐらいだろう。
「…悪く、ないですね」
 ルルーシュは、ゆっくり言った。
「…ね? 君ならそう言ってくれると思ったよ。では、早速日付を…。私の推奨は6月6日なのだからね…なぜかと言えば畑田国男という日本人が…」
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
 さっさと取り決めようとするシュナイゼルを、ルルーシュは一旦止めた。
「ん? 何かな?」
 それに、シュナイゼルが首をかしげた。
(――おかしい。この人は何でこんなに乗り気なんだ…。……!!)
 その時、ルルーシュの脳裏に、先ほどとは別の妄想というよりは、予想が浮かぶ。
 
 
 ロロとナナリーといちゃいちゃしていると、そこにシュナイゼルが通りかかる。
『ルルーシュ。少し、この政策について話したいことがあるのだけれど、少し時間はあるかな?』
『あ、はい。ロロ、ナナリー。悪いけど、少し行ってくる』
『分かりました、お兄様』
『じゃあ、また後でね。兄さん』
 2人とそう会話を交わして、ルルーシュはシュナイゼルについてゆく。しかし、シュナイゼルはなぜか執務室ではなくプライベートルームの方に向かってゆく。
 ルルーシュは疑問に思いながらもついて行った。
『…ねえ、ルルーシュ。今日は“兄の日”だから、サービスしてくれるんだよね?』
 自室にたどり着いたところで、シュナイゼルは笑顔を浮かべながらそう言った。
『……え?』
 ルルーシュは、きょとんと目をしばたかせた。
 暗転。
 
 
「兄上、『兄の日』は、全力で却下です!」
 ルルーシュは、目をクワッと見開いて言った。
「…さすがはルルーシュ。私の思惑を看破するとは」
「……って、人の思考を読んだんですか…!?」
「まあ、そんなに赤くなっていればある程度は。細かい部分は、後でゆっくりと聞きたいところだけどね」
 シュナイゼルは、にこりと笑う。
 それにルルーシュは、自分が…ひとつの思惑をつぶしたつもりで別のエサを与えていたことに気づいて、背中に汗をかいた。
 そして、シュナイゼルのせいですっかりそっちの思考に染まっていることに気づいて、こっそりとため息をつくのだった。
 

 拍手ありがとうございました! ついでにコメントなど下さると嬉しいです。
 今回のお礼はこの一種類だけです。サンホラをからめるとどうしてもシリアスになるので、たまにはこんな軽いのりの拍手お礼もしてみようかと思いました。



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