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彼女が管理する小さな温室では、年中春が訪れている。見慣れた植物から奇天烈な姿をしたものまで、全てが生き生きとした濃い色をしていて、それは緑だったり赤だったりした。
大学の敷地内の最も端に建てられた温室で、今日も彼女は実験用植物の世話をしている。

ビニールで覆われたハウスの中に入れば、人工的な暖かさが肌にまとわりついた。もう何度かこの中に入ったが、オレは未だにこの感覚が好きじゃない。
さっさと植物の茂みに進む彼女に視線を投げるが、こちらを振り向きさえしなかった。全く面白くない。

ふと自分の足元に視線を落とすと、どこかで見たような植物が、ハウスのビニールと地面の隙間から生えていた。他の瑞々しい植物とは違って、茎はすでに枯れているような茶色で、細く干からびている。
どこで見かけたのだろう。昔から知っているような奇妙な感覚が気持ち悪い。植物をよく見るとハウスの外に根があり、茎だけを図々しくハウスの中に侵入させている。葉はなく、細い茎の先端に小さく硬そうな蕾らしきものが1つあるだけ。

「ああ、それね。勝手にここで育ってきちゃって」
いつの間にか、屈んで植物を見るオレの隣に彼女がしゃがみこんでいた。まとめた髪の隙間から白いうなじが見える。
「これは先端の蕾みたいな部分から空気中の水分を摂取して生きることができるの。見た目はもう枯れているように見えるけど、これでもまだ生きているのよ」
へぇ、と相槌を打つオレを、彼女が見上げてきた。
「あなたが植物に関心を持つなんて珍しい」
「そんなことないよ。こうして毎日温室に顔を出してるじゃん」
「そうね」
「この植物さ、どうして根っこだけハウスの外にあるの?」
「元々ハウスの外に根付いたんだけど、地中から茎を伸ばして侵入したのね。少しでもいい環境に種を残したかったのかしら」
「ああ、なるほど」

彼女の説明で、この植物をどこで見たのか思い出した。滅多に帰ることのない故郷に生えていたやつだ。ゴミが敷き詰められた地面から、ひっそりと茎を伸ばしていた。
「この植物、ハウスの中に植えてあげれば?」
偽物の暖かさであれ、そこに甘い水源があればどうしたってそれを目指してしまうだろう。生物の本能なのだから仕方ない。1カ月以上彼女にアプローチしても全く相手にされない自分は、どうにもこの植物に同情してしまうのだった。

「それはダメ。厳しい環境にある方が、魅力的だもの」
楽園の女王は、今日も自分の観察対象を愛でている。




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