覚醒するのは突然だ。
泣きすぎて瞼が上手く開かない、腫れぼったい
顔は情けなく洗面所の鏡を見て「変な顔」と吐き出した。
何とか起き上がることが出来るまで、一週間かかった。
いつの間にこんなに体力を無くしてしまっていたのだろうか――ぞっとした。
それから、ああ、と気付いたのだ。
――
なんで、俺はこんなに泣いてばかりいるんだ?
少なくとも、そう、少なくとも、学生時代、嘉市の隣に立っていた
ときはこんなに涙を流していなかったはずだ、それなのにこの体たらくは何としたことか!
確かに同性相手に――
嘉市に抱かれることは精神的な衝撃を受けた。だが、死にたいと願うほどではない。
嘉市への恋心を自覚している、こんな風に扱われて
しまっても、彼が見せるふとした優しさに縋り付いてしまいたくなるほど、嘉市に囚われている。
思いを告げるの
は簡単だ。
しかし、もし嘉市が自分を抱いている理由が自分が望んでいるものと違ったら?
大事にしてくれていると思う、それは本当に伝わってきている。
だからこそ分からないのだ。
いや、分からない
振りをしているだけなのかもしれない、嘉市が自分をどう思っているのが見えないのが辛い、なにも言ってくれないのならば、ここから出して欲しい。
「……
ううん、違う」
友哉はすぐに震えて座り込んでしまいたがる足を叱咤しながら、鏡に映る情けない自分に拳を押し
当てる。
「なんですぐ、かいちに何かを望んだりするんだよ……俺はもっと強かったはずだろう?」
親兄弟もなく。
誰にも手助けされるわけでもなく。
この足で、この両手で、一生懸命やってきたじゃないか。
「俺
は、自分で何でもできるんだから……なら、できるよ、うん」
――ここから、出て行く。
嘉市と対等であるためには、こんな関係で良いはずがない。
囚われて、ただ泣いて過ごすだけなんて――ましてや命を絶とうとするだな
んて、そんなことをしていいはずがない、だって俺は自分の足で立ってきたんだから、ひとりで生きてきた自信があるんだから。
ここから出たとしても、嘉市に見つからない保証はどこにもない。
だが、見つかるとも限らない。
逃げるのは辛
い、だけど、このままいることの方がずっと辛い。
いつか、もっと時間をおけば、きっともっと互いのことが見え
てくるはずだ。
ぎゅ、と友哉はすっかり白く細くなってしまった手で、胸を押さえる。
こ
の恋心は、無かったことには出来ないが、抑えておくことは可能だ。
たくさんたくさん時間が経ってしまえば、「こんな恋をしたな」と
穏やかに笑っていられる日々が来る、絶対に来る。
ただ、もう恋は出来ないだろう。
それが辛い。
この先、自分が思い続けるのは、ただただ嘉市だけだ。
「非道い男だっていうのにな……。好きって、なにそれ」
それでも、いつかは彼に伝えることが出来るだろうか。
その時は彼と対等でいられるだろうか。
幼い頃、嘉市を守っていたのは自分だった。あの頃が懐かしい。あの時はまだなにも考えていなかった。
「……がん
ばれ、俺」
まずは、体力を戻そう。
コンソメスープだけではなく、もっと滋養のあるもの
を。
かいち、と震える唇で名を紡いだ。
その名は支配する者の名、誰よりも愛しい名だった。