※ナチュラルに同棲している至綴
※綴が25歳くらい、至が30歳くらい



パッと目が覚めると、大画面いっぱいに映し出されたタイトル画面が、薄暗いリビングにぼんやりとした光を与えている。
紅白も某笑ってはいけないバラエティも何だか観る気にならず、どちらからともなく年越しは映画でも観ようかという話になって、近所のレンタルDVDで適当に映画を五枚ほど借りてきた。

レンタル店の帰りがてらスーパーに寄って、大量の缶ビールや缶チューハイ、それにあわせたおつまみ代わりの惣菜やスナック菓子も適当に購入。帰宅して早々、揚げ物やスナック菓子をちまちまつまみながらお酒を飲み進め、映画鑑賞を決行。年明け近くになったら、年越し蕎麦を食べる予定だった。ちなみに、年越し蕎麦もカップ麺だ。至さんと一緒に暮らし始めてた最初の頃は、お蕎麦屋さんの蕎麦を購入していたが、もうずっと一緒にいると、手を抜くところを抜くようになってしまった。

年の暮れということもあり、俺も至さんもいつもよりお酒を進めるペースが早く、映画を見ながらお互いいつの間にか寝落ちしてしまっていたらしい。ちなみに隣で座っている至さんは、未だに夢の中だ。
ソファの上での寝落ちは、この年になると応えるものがあって、全身がバキバキに固まっている。

「いってー……」

うーんと伸びをすると、ガンガンと頭に鈍い痛みが走った。どうやら調子に乗って飲み過ぎてしまったようだ。
元々お酒はそこまで強くないくせに、ザルな至さんに釣られてホイホイ飲んでしまうのだ。そして酔い潰れて二日酔いまでがワンセット。俺よりもペース速くて量も多い至さんは全然酔わず、次の日もケロっとしているから、全く世の中不公平である。

「げ、年明けてる」

スマホで時間を確認すると、時刻は二時を過ぎている。とっくに年が明けてしまっていた。今タイトル画面になっている映画を見始めたのが九時過ぎ。いつ寝落ちしたのかは定かではないが、ニ時間ものの映画なため、少なくとも三時間以上は眠っていたようだ。

「至さん、起きてください」
「んあ……?」

隣ですやすや眠っている至さんを揺り起こす。何度かゆさゆさ揺すると、欠伸混じりで至さんが起き上がった。

「もう年越しそう?」
「残念ながらとっくに明けてますよ」

コキコキと首の骨を鳴らした至さんは、俺の言葉に目をパチクリさせた。自分のスマホで時間を確認し、更に目を丸くさせる。

「マジか。寝落ちで年越しとかワロ」
「飲み過ぎて頭痛いっす」
「え、そこまで飲んだっけ」
「アンタと一緒にしないでください」

俺以上にあれだけしこたま飲んだくせに、酔った様子を一ミリも見られない至さんを思いっきり睨む。しかし、本人は何処吹く風で、肩を竦めるだけ。その飄々とした態度が、余計に腹が立つ。

目の前のローテーブルに置いてあったリモコンを手に取った至さんは、おもむろにテレビの画面をDVDからテレビ番組へと切り替える。元旦恒例の歌番組が流れ始めた。最近の歌手にはめっきり疎いため、誰かはわからないが雰囲気から恐らく韓国系の男性ユニットが、しっとりとしたバラードを歌っている。

「蕎麦食べる?」
「年明けたのに食べる意味ってあるんすかね」
「いや、単純にお腹空いた」
「目の前にある食べ残した揚げ物とスナック菓子処理してくださいよ」

テーブルの上には、食べ切れず残っている揚げ物やスナック菓子で溢れかえっている。蕎麦を要求する前に、そっちを処理して欲しい。
そもそも蕎麦は大晦日に食べるから意味があるもので、とっくに年が明けた今現在に食べる意味は果たしてあるのか、甚だ疑問である。

だけど、至さんは俺の提案に、思いっきり顔を顰めた。

「えー、もうこの時間にこんなこってりしたもん食えないよ」
「年ですもんね」
「うるさいよ」

とっくにアラサーを迎えた至さんには、深夜の揚げ物やスナック菓子は辛いらしい。昔は平気でジャンクフードを食べていたのに。時間の流れとは恐ろしいものだ。
夜遅くまでゲームをするのは相変わらずだが、最近の深夜のお供は、うどんやにゅう麺であることが多い。見た目は殆ど変わらず年齢詐欺だなんて言われている至さんだが、内臓は順調に年を重ねているようだ。

痛いところを突かれたためか、至さんから軽い足蹴りを脛に喰らってしまった。俺もお見舞いに足蹴りを仕返す。

「お湯沸かしてよ綴」
「イヤですよ、俺酔って頭痛いっすもん」
「軟弱なヤツだな」
「その軟弱なヤツにお願いしてるのは何処のどいつっすか」
「俺ひ弱だもーん」
「それ、自分で言って虚しくありません?」

そう突っ込みを入れると、何が面白いのか至さんはケタケタと笑い出した。一体何が彼のツボに入ったのかよくわからない。もしかしたら、至さんも結構酔っているのかもしれない。

「そだ、綴」
「なんすか」

名前を呼ばれたのと同時に、ピタリと足蹴りの攻撃が止む。俺も一旦攻撃を中断した。
ソファの上。俺と至さんが向かい合う形を取る。目の前の人は、大変機嫌がよろしいらしく、ニコニコと笑顔を絶やさない。

「あけおめ」

一体何だと思ったら。このタイミングで新年の挨拶かよ。
マイペースでゆるっとしたところが、何とも至さんらしくて気が抜けてしまうが。

「こういうときくらい、真面目に挨拶してくださいよ」

大の大人が使う挨拶の言葉とは思えない。溜め息混じりで呆れながらそう返すと、俺ららしいでしょ、と至さんはクツクツと笑いながら答えた。

「ったく……、今年もよろしくお願いします」
「今年も一つ全力でよろしく頼むわ」
「何すか、それ」

訳のわからない挨拶に、思わず吹き出してしまう。
きっと今年も、至さんとはこんな感じで一年過ごすのだろう。下手に畏まらず、硬くなりすぎず、ゆるっとまったりした時間が流れるに違いない。

でもそんな生活、悪くないと思っている自分が、確かにいるのだ。




FIN