「あ、忘れたんだった…。ねぇ、」
「ああ、筆箱は鞄の中だ」
「あ、うん」
私が日誌を書いている間、蓮二は優雅に読書をしている。
私にとってそれは至極日常的な風景で、なんとなく安心する。
「あのさ、月曜日ね…」
「ん?月曜は確か、お前の部活が休みだったか。
仁王に遊ばれないようにさえしてくれれば観に来てくれて構わんぞ」
「そう?やった」
日誌を書く手を休め休め蓮二に話しかける私に対して
蓮二は一向に本から視線を外すことなく答える。
「ホント、蓮二ってなんでも分かるのね」
今更ながら感心してその顔をまじまじ見ていうと
ようやく本から顔を上げて私のほうを向いた。
「なんだか、テレパシーみたい」
きっと私みたいな凡人の脳みそとは全然違う作りの、違うスピードで働く
とんでもない、お脳が入ってる頭をボーっと見上げた。
「相手はお前限定だがな」
「え?」
呆けていた視線が、驚いて蓮二の顔に行く頃にはすでに
蓮二は本の中に視線を落としていた。
「いいから、さっさと終わらせろ」
「う、うん!」
元気よく返事をして日誌にシャープペンを走らせると
更に頭上から声がした。
「全く、お前は単純だからな」
「…え、そういう意味だったの…?」
「…さあな」
そういう蓮二は少しだけ機嫌がよさそうだったから
きっと私の解釈は間違っていない気がした。