「la couverture 1」
休日のゆったりした朝の眠りを貪る僕は、腕の中にある彼女の温もりを確かめてから、
眠い目をこすった。
高い天井のすぐ下から伸びる大きな窓にかかった、白く長いカーテンの間から、明るい
光が部屋へと入り込んでいた。
ヘリンボーンに組まれた飴色の床板に視線を落とすと、彼女がお気に入りの色鮮やかな
ルームシューズが置かれている。
壁に取り付けた細長い棚の上には、少しずつ集めた写真立てに二人の姿が飾られている。
以前友人からもらったカードと、彼女が花屋で買った小さなブーケも並んだ。
白い壁は何度も塗り替えられたせいか、ところどころが剥げ落ち、このアパルトマンの長い
歴史を感じさせていた。
手を伸ばし、チェストの上に置いておいた小さな箱の蓋を開け、美しいリングを取り出す。
眠る陶子の左手を取り、薬指にそっとはめた。
「……柊、史?」
瞼を閉じたまま僕の名を呼ぶ陶子の額に口付けた。
「まだ寝てていいよ」
「……ここにいて」
伸ばした薬指には、僕の指にもはめられた同じものが光っている。その上には、今僕が重
ね付けした、薔薇の施されたアンティークの銀細工。彼女の華奢な指によく似合っていた。
上手く選べた自分を誇りに思いながら、陶子の手を取り身体ごと腕の中に収め、滑らかな
長い髪を何度も撫でた。
君が喜んでくれたら、ご褒美に何をねだろうか。
目が覚めて気付いてくれた時の顔を思い浮かべ、毛布の中で瞼を閉じ、彼女と共に
再び幸せな眠りへと落ちていった。
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