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「気がついたこと」
どんなことでも黙っているより、言葉にしたほうが阿部君は怒らない。
そう気がついてから、オレはなるべく思ったことを口にするようにした。
もうずっと友達なんか殆どいなくて、口下手なオレのたどたどしい話を、阿部君はちゃんと聞いてくれる。相槌もうってくれるし、代わりに、おもしろくてためになる話もたくさんしてくれる。
もちろん、オレがあんまり馬鹿なこと言ったりすると怒られたりもするけど、それはだんまりを決め込んだときの怒られかたとは全然違くて。
オレは阿部君が怖いけど、怖くない。
ううん。
オレなんかの話をちゃんと聞いてくれているんだって、嬉しくなる。
だからオレはもっともっと、阿部君と話したいなあって、思う。
けど最近阿部君は、オレが一生懸命話をしていると、不意に黙り込んで「おまえ、ちょっと黙れよ」なんて言ったりする。
初めて言われたときは、最初阿部君がなにを言っているのかさっぱりわからなくて、オレはぽかんとしていたと思う。
それで、隣に座る阿部君の顔を、ただぼんやりと眺めていたと思う。でもそうしているうちに、だんだんと阿部君の言った意味がわかってきて。
オレは血の気が引くのを覚えた。
さあって、音がしたような気がした。
やっぱりオレの話なんか、阿部君つまんなかったんだよね。
内容もだけど、話し方もたどたどしいし、きっと鬱陶しいなあって、思ってたんだよね。
なのにオレは調子にのっちゃって。
阿部君が優しいからって、調子にのっちゃって。
いやな思いをたくさんさせていたんだ、ずっとずっと。
オレはだから謝ろうと思って、口を開いた。
でもさっきまではたどたどしくもなんとか話せていた言葉が、全然出てこなくなっていた。
喉につかえて、一向に外に飛び出してくれる気配がない。
代わりに出なくていい涙ばっかりがじわじわと浮かんできて、オレの視界はすぐにぼんやりとにじんでしまった。
多分阿部君は、オレが泣きそうになっているのに気がついたんだと思う。
はあって大きなため息をつくと、不意にオレに顔を寄せてきた。
オレはもう絶対に怒られるんだって怖くなって、ぎゅっと目をつぶるしかなかった――。
***
「で、ね。田島君がハマちゃんのパン、食べちゃって」
「はあ」
「オレ、いいなあって思って」
「へえ」
「そしたらハマちゃんがオレにもパン、くれて」
「ふーん」
「育ち盛り? だからたくさん食べなきゃ、って言ってた」
「そう」
「そしたら泉君がハマちゃんにずるいって言って」
「……」
「でももうハマちゃん、パン、なくて」
「……」
「みんなで購買に、行った」
「……あー」
「へ?」
「それはわかったから」
「う、ん?」
「……おまえちょっと黙れって」
そう言うと阿部君は、オレの顔をのぞきこんできた。
オレの部屋で、二人きりで、ベッドによっかかって並んで座っていたから、あっという間のことだった。
阿部君は、ちょっとだけ怖い顔をしていた。
据わった目で、オレをじっと見ている。
オレは反射的に目を閉じたんだけど、それは阿部君が怖いからじゃ、全然ない。
だって、だって――。
口に少しかさついたぬくもりを感じて、オレは思わずくふふと笑った。
そしたら阿部君は、すぐに離れていってしまった。
あれ? って思ったのもつかの間、ぎゅって抱き締められて、耳元で「なに笑ってんだよ」って呟かれた。
だからオレはこう答えた。
「え、と。嬉しいなって、思って」
「……そっか」
オレの返事に納得してくれたらしい阿部君は、今度はさっきみたく一瞬じゃなくて、何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、オレにちゅうしてくれた。
オレは幸せな心地で目を閉じながら、阿部君のされるがままになっていた。
ねえ、阿部君。
オレ、最近ね。
阿部君が黙れって言うの、待ってるんだよ。
だから二人きりになったら一生懸命喋るんだけど、阿部君知ったら怒るかな――?
喜ぶと思います 20080601UP
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