キィ。

静かに執務室の扉を開けて。
ソロリ、と足を忍ばせた。
キョロリ、とエドワードは視線を巡らせてから、奥にある司令官専用の仮眠室へ気配を消して近付いた。


『ちわっす。大佐は?』
サボリ?と聞くと
『大佐は仮眠を取られているの。そろそろ時間だから起こして来てくれる?』
訪れた司令部で、実は実力ナンバー1なんじゃないか、と言う美貌の副官に頼まれた。
懇意にしている彼女から頼まれたら否やなんてない。
何より、いつも澄ましている男が寝ている姿なんて。

―――面白そうじゃないか。


(寝相が悪かったら言いふらしてやろう。いきなり殴って起こすのも良いな。それとも驚かせるか・・・)

いつも不本意ながら口喧嘩で負けるので何か弱味を握ってやろうと、息を殺して仮眠室のドアをゆっくりと開いた。


薄暗い、室内。
一般の仮眠室は二段ベッドの4人部屋であったり、病院のようにベッドが並んでカーテンで仕切られた6人部屋であったり、病人用に簡易な個室はあったけれど。
この部屋は地位相当なのか、結構立派に作られた個室であった。
とは言っても豪華な部屋と言う訳では無く、一般用より面積が若干広く、ベッドも少し良さ気で簡易机と洗面所が付いているだけだ。
ベッドに隣接した開けっ放しのクローゼットには、大佐位を示す軍服の上着が掛かり、その下には軍靴がその長さに負けてクタリとおじぎをしたまま置かれていた。
そして、ベッドの中央にこんもりとした山。
枕に黒髪がチラリと見える。
耳をそばだてても静かな寝息が聞こえるだけなので、彼は未だ寝ているようだ。

(よし)

ニヤリと笑って、念には念を入れて前に屈み、頭の位置を低くさせてソソソとベッドに近寄る。
(寝顔はいけーん)
枕元に寄り、頭を少し持ち上げたが、生憎反対側を向いているので後ろ頭しか見えなかった。

(ちっ)

仕方なく戦法を変え「叩き起こす」コースにしようと、静かに、スクワットの要領で伸び上がろうと膝に力を入れた所で。

「・・・・っ!?」

物凄い力で腕を引っ張られ、ベッドに引き倒された。
一気に反転する視界。

「----誰だ?」

低い、今まで聞いた事の無い声。
殺気こそ無いものの、その声音にゾワリと本能的な恐怖を感じる。

「・・・っ、た、大佐っ! オレっ!」
手を振ろうとして、生身の左手は痺れる程の力で押さえ込まれ、右手もギチギチと音を立てて動けなかった。
しばらく検分するような視線を感じた後、
「・・・鋼の?」
ようやっと、剣呑なオーラが消え、フッと押さえ込まれていた力が軽くなった。


「・・・何をしているんだね、君は・・・」
ベッドに貼付けられたまま、呆れたような声が降って来た。
薄暗い上に(光は無いが)逆光のような形なので、イマイチ男の表情が掴めない。
が、今にも溜め息を付きそうな顔をしている事だろう。
「・・・別に・・・」
弱味を握ろうとしてました、なんて素直に言える筈も無く、しかも失敗しているので顔をそらした。
どうせバレている気もするが、わざわざ自分から言うのも癪だ。
しかし
「大方、寝起きどっきりでも仕掛ける気だったんだろう」
期待に添えなくて悪いね、と、ハハハと案の定ムカつく笑いを返された。
「・・・驚いて人を押し倒した奴に言われたかないぜ」
軍人なら部屋に入った時点で気付けよなー、と反論する。
「・・・殺気が無かったからな。中尉が起こしに来る事もある。それで一々起きないよ」
「・・・あっそ」
確かにもっともな意見を聞かされて、クソゥと思った。
そのふて腐れた顔が分かったのか、男が笑った。

「・・・ちぇっ、あぁもういい加減手ぇ離せよ」
未だ拘束されたままの両手をワキワキと動かす。
「あぁ、そうだな」
「おい・・・」
すっかり忘れていたと言う風情の男に、寝ぼけてんのか?と胡乱な目を向けると、彼は手を離そうとして何かを考えたようだった。
「? 何だよ?」
「そうだな。私を驚かせたいのなら・・・」
「―――・・・へ?」
ニコリと笑ったような気がした男の顔が近付いて。

ちゅ。

唇を掠めていった。

「へ?・・・・・・なっ!」
「コレくらいしてみたまえ」

至近距離で笑んだ男に反応が一瞬遅れて。
脳に今の出来事が達した時には男はもう身体の上から離れていた。

「ちょ、テメ、今・・・!」
口元を押さえて真っ赤になっているだろう顔を上げると。
「ごちそうさま。次の来襲を楽しみにしているよ」
とどめにまた頬に口付けを落として。
男は機嫌良さ気にさっさと軍服を整えて仮眠室を出ていった。


「な、な・・・」

後には色々な意味で逆に襲われた少年が残った。





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兄さん13歳位の出来事?

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