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ありがとうございます!
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もう、やり尽くされた感が少なからずあるし、
上手く書けない自覚がある。ので。
アスカガは、もう書けないなぁ、と思う。
思ってるんです、
でも。
うっかりアスカガで物語を考えてしまうことがあります。
はまってたんですね……
大抵、代表カガリの日常の間隙のような酷く短いものです。
なので、
ここで流します……
今回は時節モノをw
帰宅したカガリは小さな箱を携えていた。積み重ねたそれは3つ。
愛らしい色合いの包装と、伝統的な柄を印刷した箱と、黒を基調にした品のあるデザインの箱。
卓に並べて眺めつつ溜息を吐いた。けれど彼女は嬉しそうに見える。
「どうしたんだ?それ」
問えば、振り返って困ったように笑った。
「バレンタイン、だそうだ」
ああ、と日中自分が体験した状況を思い出してアスランは苦笑する。
「押し付けられた。顔を合わせてると断り難くてさ」
カガリは少し迷って、黒い箱の蓋を開けた。
箱の中に整然と並べられた、控えめに刻印を捺された四角い板型のチョコレートが現れる。
少しビターな味を連想させる色と、口溶けの良さそうな、しっとりとした艶に、その質の良さが見て取れた。
それを僅かな驚愕と大いに呆れた表情で見下ろし、ふと笑う。
「あいつら」
「あいつ、ら?」
複数形に驚いてカガリを見返す。すると、慈しむような瞳で宙を仰いだ。
「うん。新任の若い士官達だ。視察先で、な。一瞬だったよ。駆け寄ってきて
『受け取ってください!』て手の中に無理矢理持たされて。顔を赤くして、かわいかったな」
「それで受け取ったのか」
急に不機嫌そうな顔になったアスランに、カガリは失笑する。
「そう怒るなよ。上にも許可を取ってたみたいで、収めてやってほしい、て上官も言うし、問題無いだろ?
そのくらいの大らかさはあっていいんじゃないか?」
穏やかに言って彼女はタブレットを一枚摘んだ。小さく齧り付いて小気味良い音を立てる。
「んー!うまい!食べてみろよ、お前も」
ほら、と一枚摘んで口元へ差し出した。躊躇する彼に更に差し出すと、仕方ないという風に口に入れる。そして、目を見開いた。
「! 美味しいな」
「だろう?これは相当なものだぞ。……あいつら、無理をして」
齧りながら士官等を思っているのか、カガリは優しい笑みを浮かべている。
「愛されているな」
カガリはアスランを見据えて首を傾げた。
「そうでなければ困る、か」
アスランが皮肉に笑って言うとカガリは首を横に振る。
「困りはしないさ。都合はいいかもしれないがな。
だけど、こんな風に思ってくれてるのは嬉しいな。国の一部として、じゃなくて、人として覚えてくれてる。
議会ではお飾りかもしれないが、軍では人でいられる」
曖昧な表情で、ああ、と呟いた。
確かに、議会では軽んじられている嫌いのある彼女は、軍では畏敬の念をもって親しまれている感がある。まさにmomだ。
為政者としてより指揮官としての実績の方が高いのだから仕方ないとはいえ、
周りの大人達にしろ彼女自身にしろ、この状況は如何なものかと思ってしまう。
自然、歯切れの悪い受け応えになった。
しかし、自虐的にお飾りだと言い切る彼女は政務を疎かにしている訳では無いし、
確かにそれは公務と呼んだ方が正しいかもしれないが、それでも成果を上げている。
軽んじられる謂れは無い筈だが、議会の態度が彼女の若さ故のことなら理不尽だ……歪む感情に顔を伏せた。
「また難しく考えてるのか?」
軽やかに響くカガリの声に意識を引き戻される。再び像を結ぶ霞んだ視界に暁の双眸が映った。
「まあ……確かにお返しは悩むけどな」
微かに笑う音と共に覗き込んでいた暁がふと消える。追って上がった顔は歪みを残したまま縋るように暁を捉えた。
「何だよ、その顔。何か言いたそうだな。そんなに気に入らないのかよ」
放り出すように逸らされた視線が胸を締め付ける。
その痛みにただ口中に否定の言葉を呟きながらカガリの動作を追えば、濃茶の板を再び摘み、一角を齧るのが見えた。
「……忠実、すぎるんだよ。確かに、力をくれ、とは言ったけど、こういうのは想像してなかった」
小さく発せられたその言葉は想定外で、不覚にも動揺する。
しばしば目にする彼女の苦味を含む表情や握り込み震える拳は自覚の表れ、分かっているからこそ至らない部分の悔しさやもどかしさが自信を削っていく。
そうして折れそうになる彼女の心を支えるのは自分の役割だ、と思っていた。
だが、それは勝手な思い込みなのだとアスランは知る。
彼女は愛されている。こんなにも、誠実な真心で。そして彼女も、それを十分に受け取れる感性を持っている。
なら、自分の思いは、独り善がりで押し付けがましい不要なものではないのか。
動揺は現実を自覚して無力感に変わる。それは陰となって思いを曇らせ、その思いが距離を置くように目を逸らさせた。
視界の端に捉えたアスランのその様子は実に見慣れたもので、カガリはそれを喪失と諦めだと理解している。
軽く苦笑して残りの濃茶を押し込んだ。
失くしたものは何か気付いているだろうか。
実際には何も失くしてはいない。自分の知らない私を知っただけだ。
いつもそうだ、共有していない時間の私の居場所が見えると、今まで持っていた自信を、自分の場所を見失って、
そうして自分を切り捨ててしまう。
何だか哀れだ、とカガリは思う。
けれど、そんなところが目が離せなくて、好ましく思えていて、多分、特別な存在になった。
告げるつもりは無い。ただ、切り捨てられた彼を拾い上げていきたいと思っている。
自分に起因することなら尚更、失われていくのは嫌だった。
「おまえは側に居てくれないか」
視界の端のその人を中央へ戻し、カガリは静かに声をかけた。
逸らされた目がその位置で見開かれて距離を主張する。それをもどかしく思いながら続けた。
「有難いことに私を好ましく思ってくれる人がいることを、折に触れて知ることが出来る。こんな風に。それは励みになるし、力にもなる。
だけど、彼らの気持ちは遠いんだ。別に私でなくてもいいんだから、心ある指導者なら。少し寂しいけど、そういうものだ」
再び覗き込めば極光の瞳はカガリを捉える。
「おまえはもっと近くに居てくれないか」
ここに、と手を伸ばす。その頬に触れてカガリは少しだけ踵を上げた。
移されたこく深いカカオの香りは甘さを纏って脳内を支配する。その許容と希求に思考を放棄した。
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chocolate
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お粗末でした…
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