結局、望むものは手に入らないのか。
なんのために、ままならぬ身体を引き摺ってここまで来たのか。霊域と化した境内で見たものはただの巨大な絶望だった。
「……私は、私は、こんなもののためにここにいるわけではないのに!」
「違うよ、キャスター」
士郎は静かに言った。
「俺もキャスターも、こんなもののためにここにいるんだ」
士郎が魔術回路を起動する。
「こんなものをなんとかするために、ここにいるんだ」
投影開始の詠唱に澱みはなく、信念に揺ぎもなく、構成に微塵の瑕疵もなく。稀代の魔術師と呼ばれた自分から見ても、完璧に生成された。召喚されてからは共に、それ以前から欠かさず行ってきた鍛練の成果が顕現している。両手の双剣を構えて、士郎は控えるキャスターに告げた。
「全部終わったら、ゆっくり過ごそう。春には花見をして、夏には海水浴をして、秋には紅葉狩りをして、冬には雪だるまを作ろう。キャスターは、もっと楽しい時間を過ごしていい。苦しんだ人は、その分報われなきゃいけないんだから」
愛想の欠片もなく、しかしキャスターには分かった。彼の声に込められた精一杯ものを。同時に知った。聖杯が消えてしまえば私がどうなるか、この少年は知らないことを。

思えば、衛宮士郎は、いつでも私のことを信じていた。裏切りの魔女と呼ばれた私を、何度背を向けても迎えにきた。無防備な心を晒して、俺には信じることしか出来ないのだから、と傷だらけで笑った。
「本人は分かっていないけどね。こいつの背中を守る人が必要なのよ」
いつかの誰かの言葉。布団に横たわる青い顔を眺めながら呆然と聞いた言葉。私が作った薬を疑うことなく口にし、苦いと顔をしかめてそれでも全部飲み干した。

傷付き、裏切られ、二度と信じることなどしないと誓った。そう、二度と信じたりはしないと誓ったのだ。
だが。
空の下では一度も外したことのなかったフードを取った。
今こそ、誓いを破ろう。この少年に裏切られるのならば受け入れよう。傷付くことがあろうとも、この少年に傷付けられるならば受け入れよう。私は、私のなすべきことを果たす。
脆い身だが、私には魔術がある。最古の英雄であろうとも決して届かぬ高みをたった一つだけ私は持っている。
マスター、衛宮士郎。私が必ず貴方の背中を守りましょう。

「ほう。顔を隠すのは止めたのか、裏切りの魔女」
「私は信じるものを見付けた。私は私のために私のマスターを守る。それだけが私の望みよ」

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「夏の日キャスター」を読んで書いたネタ。長編になりそうだったけど完結させられる気がしなかったのでペンディング。
久々に再読したけど、「夏の日キャスター」やっぱりいいね。

拍手ありがとうございました。
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