夜のキッチンは眠らない外の灯りを反射して室内にそれを届けている。人口光をつけぬまま、流しの前で互いに見つめ合っていた。彼の瞳は闇の中でも妖しい炎の様に煌々と輝いている。いつでもその瞳に囚われていた。

この瞳に見つめられるなんて現実じゃないみたいだ。そう思ったら愛おしさと共に涙すら込み上げてくる。何故だろう。哀しいのだろうか。


否。


この感情は愛しい。

この感情が、愛しい。

愛しいのが、哀しいのだ。

ゆっくりと彼の顔が近づいて、唇が触れるか触れないかの距離までに近づいてびくりとした。カインの目が心配そうに目を細めて見つめてくる。


涙が零れた。


つう、と頬を伝って行くそれを、カインが唇をそっと這わせて吸いとる。彼の左手がそっと頬に触れ、髪の中へと差し込まれていく。頬にあった唇が、今度は自分の唇に触れて、ルナは目を閉じた。涙がつ、とまた一つこぼれた。


「ルナ・・・・」


その唇に触れた途端、彼女は色づいた頬に透明な涙をボロボロとこぼし始めた。驚きはしなかったけれど、目をうっすら開けた彼女に問いかける。


「哀しいのか・・・」


彼女はただ黙って首を左右に振った。涙がきらきらと散って暗闇に輝く。ならいい、と思った。余計な事は聞かない、彼女が哀しくないのなら、それでいいと思った。濡れた頬に唇を這わせ、啄ばむ様に音を立てて涙を吸いとっていく。涙は止まりそうにない。少し困った。


「そんなに泣くな」

彼女の髪を梳きながら、もう片方の手で背中を上下に撫でる。少し落ち着いたのか、その顔をく、と持ち上げた。

「カイン・・・」

見上げた夜の瞳は暗闇で分かりにくかったが、水を沢山含んで潤んでいた。その瞳に理性がぐらつきそうになるが、なんとか堪える。彼女はまたこちらの胸の中に顔をうずめた。


「・・もう少し・・このままでいて・・・」


かすれた声でそう言われて、断る理由もない。カインはただ分かったと頷いた。自分を掴んで泣いてくれる、この胸の中の存在が愛おしかった。








                        (僕に縋ってなく君が愛しい)



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