[5.夢の階段]

ぼふん。

やっとのことで家に帰り、コンビニで買った夕飯で簡素な食事を済まして風呂に入ったらソファで行き倒れてしまった。
眠い。兎に角眠いのだ。もう考えていた事も嫌な上司も何もかもどうでもよくなって、何もかも忘れさせてくれる眠りに落ちたかった。
うとうととそのまま瞼を閉じようとした時、キッチンの方から驚いたような声が聞こえた。

「ルナ、何てトコで寝てる」

「んぅ・・・」

カインはそのままソファに沈む彼女の傍にしゃがみこんで、声をかけた。だがルナはその声に最早きちんと反応する事すら出来ないようで、何だか駄々っ子のように呻くのみだった。
間接照明を嫌がるように腕で自らの視界を塞ぐ。

「ルナ、風邪をひく。ベッドに寝ろ」

そのまま肩をゆすられてはいるがなすがまま。カインは仕方のない、とため息をついた。
ここで自分も寝るとしよう。ルナをこのままにしては置けない。
再び立ち上がって、ケットを取り行く事にした。自分には必要の無い者だが、彼女は生身の人間だ。
いくら温かくなってきたからといって油断をしては人間は直ぐに体調を崩す。

厄介なものだ、と思う。
でもそれと同時にだからこそ愛おしいのだとも思う。
強いようでいて、実は弱くて儚くて。瞳の奥に宿る意志の強さは、彼自身も嫌いではない。
それでも。

―いつからこんなに愛おしくなっただろうか?

彼女の好きな物、似合う物、色、匂い、何もかも―
知りたくて触れたくて、堪らなくなったのは、いつから?
ケットを持ち、彼女の沈むソファへ向かう彼の口角は、はからずも上がりっぱなしだった。


              +++++++++++++++

ふわり。

彼女の身体に掛けたケットはあっけなく言う事を聞いて彼女を覆いつくす。
それを見届けて、カインはおもむろにルナの頭を持ち上げ、空いた場所に自分が腰を下ろした。
そして再び、今度は自分の膝に彼女の頭を持ってくる。拍子に気がついたのか、茶色の瞳がうっすらと開けられた。

「ん・・・・かい・・ん?」

寝起きで寝ぼけているのか。
掠れた声に聴覚を犯されて、思考が一旦ブレる。

ちゅ。

そのままストレートに、ルナの口を軽く啄ばんだ。

ぼぼっ。

すぐに目が覚めたのか顔が真っ赤になって、慌てて起き上がろうとする身体を無理矢理沈めた。
もぅ、と毒づく声も気にしない。カインは思わずクス、と笑った。

「寝起きも可愛い」

「んなっ・・・ばっ・・・!」

「今夜は共にココで眠ろう。気にするな、お前ほど柔じゃない」

でも・・・という声も、柔らかな髪をゆっくりと撫でていてやれば、やがて無抵抗に代わっていく。
カイン、とルナが声なき声で呼ぶ。
やがて閉じられた瞳をそっと見つめて、あふれるのは愛おしさばかりで。



「・・・・・・良い夢を」


たまらずにカインはもう一度、眠るその唇にキスを落とした。




[SLEEPING BEAUTYにつくのは茨ではなく見目麗しき悪魔]



反省→本人が眠いだけなオチが多いよ最近。頭を撫でられると眠くなるのも自分だったりする。



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