拍手ありがとうございます。とても励みになります。

今回もささやかながらお礼文を用意させていただきました。降春で、いつものパラレル設定です。

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背後霊(大)

 たまには学生らしく、春市は机に向かう。ローテーブルの正面には入学のときに買ってもらったノートパソコン、その左側には大学の図書館で借りてきた本が数冊、右側には中身のとうに冷めたマグカップが配置されている。提出期限は2日後、飲み会に付きあっていたり、バイトだったり、降谷となんとなくだらだらしていたら、手をつけぬまま今日まで来てしまった。
 いっしょに暮らすということは、歩み寄るということでもある。決められたルールに沿って否応なく足並みを揃える、高校での寮生活とは訳が違う。もしも、それぞれがそれぞれの生活様式をかたくなに貫くのなら、べつべつに暮らしたほうが楽であって、いっしょに暮らす意味がまるでない。起床就寝のタイミングや食事の好み、よく見るテレビ番組。日々を構成するパーツを調整して、どちらにとっても暮らしやすいパターンを考える。しかし、それが渋々の妥協なのかといえばそうでもない。少しずつ歩み寄ってふたりの生活を築きあげていくことはなんともあたたかで、むしろ得るもののほうが大きいとすら感じる。だからこそ、いっしょに暮らすのである。
 とはいえ、これはいささか悪影響だ。高校時代、勉強はからっきしできなかった降谷が、それなりにこなしていた春市に歩み寄ってしっかりすると思いきや、春市のほうが降谷の影響を受けて以前よりものんびりと構えるようになった。あまくなってしまってどうもだめだ、これからはもっと気を引き締めなければ。
 そう思った矢先、リビングのドアの開く音がした。春市の背後からパソコンのスクリーンを覗き、腰を下ろすと、さっそく腹に腕が回ってくる。頭のすぐ後ろで呼吸を感じる。
「まだ寝ないの?」
「レポートがあるからね」
「べつに今日じゃなくても……」
「だめだよ、提出あさってなんだから。降谷くんは先に寝てなよ」
「…………」
 いやだとでも言うかのように、腕がきつくなる。ここにいるだけなら邪魔にはならないからいいか、と春市はスクリーンに意識を戻した。降谷がやたらくっつきたがるのにも、そんな降谷を背負いながら作業をするのにも、もうだいぶ慣れた。一見淡白な降谷がふたりのときに見せるこういった仕草に弱く、引き締めたばかりの気が早くも緩んでいることに春市はまたも気がつかない。
 腕がおもむろに肩まであがってくる。
「肩もんであげる」
「……ありがと」
 しばらく机に向かっているせいで凝り固まった筋の上を、親指がちょうどよい力を加えながら滑っていく。1年のときにさんざんマッサージをさせられたせいか、なかなかに上手だ。ほっと身体の緊張が解ける。
 襟足ですん、と息を吸ったと思えば、柔らかなものが押しつけられた。
「それは、だめ。そういうことするなら、さっさと部屋に寝にいってよね」
「…………」
 ふたたび腹に腕が回ってきてしがみつく。
 そうしているあいだにも、時は無情にすぎてゆく。



おわり

降春では定番中の定番ですね!背後霊(小)もいつかきっと出てきます。2012.12.11


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改めて、拍手ありがとうございました!

みあ



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