----------------------------「 君が言う 」(Dグレ/ラビミラ/小話)
行ってらっしゃいと手を振る姿が、遠く遠く、流れるようにして自分の視界を通り過ぎていく。ぽっかりと空いた洞穴、舟上から、瞳を細めてそんな彼女の遠ざかる姿を息を潜めてじっと見つめる。
(もう………灯りが)
やがて佇む彼女の、その手元を照らし出す灯りが気付けば周囲の闇に溶け込んでしまいそうなほど覚束無く見えて―――見送られているのは紛れもなく自分だというのに、何故か彼女のほうこそが自分から遠のいているような錯覚に見舞われた。瞬間、吐息を吐いて、澱んだ胸の内を外に散らすようにしてラビは軽く頭を振った。次いで、慣れろ、と叩き込むようにして脳内に端的な命令を下す。
毎度毎度、そうやって任務に出る度に不安になっていてどうする。
行ってらっしゃい、と彼女が告げる。その彼女の表情には欠片も迷いはない。疑ってもない。……わかっているのだ。彼女は自分を見送り、柔らかく背を押す言葉だけを微笑んで告げているのだと。帰ってくることを信じて疑わぬ、彼女の優しさがそれを紡がせているのだと。
それを自分は心から嬉しいと思うし、充分だとも噛み締めてもいる。だが同時に人はどこまでも貪欲になれる生き物だと、彼女が微笑むたびに痛感させられるのだ。
(あんま、簡単にさ)
そこに「未来」があるのだとただ純粋に信じている彼女。
ないかもしれないと、微笑む彼女を前に漠然とそんなことを思う自分。
どちらが悪いわけでもない。
ただ、どちらともにも情があるだけの話なのだ。
「……うん、行ってくるさ、ミランダ」
遠く離れてゆく彼女へと囁くようにして呟く。
けれど行ってらっしゃいと言って送り出してくれたここへと、戻ってこれる……否、帰ってこれる保証など自分にはなく、どこを探してもそれは決してないのだ。
だがそれでも彼女は信じているのだろう。
揺るぎも無く信じているから、ミランダは言う。
『行ってらっしゃい、ラビくん。気をつけてね』
いつだって、自分にとって一番難しいことを、笑いながら、そう。
fin.
06/12/04
ひっそりとお題に添って。(書いていいものやら…あわわ。また訊こう)
あまり明るい話でなくてすみません。ラブがやっぱり少ないですよねうちのラビミラって。とりあえずラビは、ミランダさんを侮りすぎですよという話かと。そして全て踏まえてわかった上で彼女は許容してるんですよという話かと。(どこが)
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