−トマトと俺−
「あ、あかんよ。トマト涼しいとこ置いとかな」
「ん〜…この辺の日陰でいいだろ」
「ちゃんと上に薄布被せといてな。猫が悪戯するから」
「分かってる!」
市場で箱買いしてきたトマトを俺は床に下ろした。
言われたとおりにちゃんと布きれも被せる。
だが珍しく向こうから誘ってきたと思ったらこれだ。
トマト買いに行くから、付き合って。
俺は目の前のトマトたちが憎く思えて仕方がなかった。
「折角やから3つぐらい持ってきて〜。食べよ」
「はぃはぃ…」
それでもそのトマト馬鹿に惚れてしまった以上、どうしようもない。
あの髪の毛も脳みそもふわっふわな男が可愛く見えるのだ。
褐色の肌にトマトの赤はよく映えた。
「何も掛けんで食べる?塩振る?」
「そのままでいい」
ご丁寧にヘタを除いてスライスされたトマトが皿に並ぶ。
それを摘んでは口に運ぶ奴の顔は幸せそうだった。
「やっぱトマト美味しいなぁ!」
「…うん…‥」
「もう1個食べよ」
そう言いながら薄っぺらいトマトをまた口に放り込む。
俺も決して不味くはないそれをあまり進まぬ手で摘み上げた。
だって今日呼ばれたのはこいつのためで。
それって俺がトマト以下ってことじゃないのか。
「何か元気あらへんなぁ。どないしたん?」
「別に…」
「トマト美味しいよ?ほら、あ〜ん」
「あ、あ〜んてお前…!」
「いいから早ぉ」
「っ……‥!!!」
俺は目の前にぶら下げられたトマトに動揺させられた。
いや正確に言うと、トマトを摘んだ、その指に。
【そのままお前ごと喰ってやろうか…】
そんな俺の心の葛藤は露知らず。
「えへへ、な?美味しいやろ?」
「…美味い…‥」
口でトマトを受け取ってやると彼は太陽のように笑った。
2009 @ろんじん
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