−言えない本音−
「ルートそんな難しい本ばっか読んでないでよ〜」
「もう少しで切りがいいから待ってろ」
「えぇ〜…!」
俺が遊びに来た奴を余所に本を読んでいるとあからさまな不安の声。
まぁ当然と言えば当然だが、仕方ない。
もう少しで一段落読み終えるのは本当のことだから。
「俺ルートとお話したい。膝枕し〜ちゃおっと」
「あっ、こら…‥!」
「ここで待ってるから早く読み終えてよね〜」
「ッ…‥覗くな馬鹿っ」
痺れを切らせたは奴は俺の膝…というか太股の上に頭を乗せてきた。
そこから上を向かれるとちょうど視線が重なってしまう。
俺は慌てて本の位置をずらしてその隙間を消した。
「あ、ちょ…それじゃルートの顔が見えないじゃん!」
「見なくていい!見るなっ!」
「ヤだよ。俺ルートのこと見てたいもん」
「フェリ…!」
「俺がいるときに限って本を読もうとするお前が悪いんだ」
「だっ‥て…‥」
言い合ううちに奴は本と俺の間に入ってきて。
真正面から茶色い瞳に見つめられては俺も読書どころではなくなる。
しおりを挟みながら視線を逸らすと、耳元で話されて心臓が飛び出るかと思った。
こういうのは絶対、ずるいと思う。
「何で視線逸らすの?」
「っ…耳、や…‥」
「俺この前いい感じのリストランテ見つけたんだよ。今度食べに行こう?」
「うん。分かった、から…」
「ジェラテリーアに新作フレーバーも出たんだって」
「う…‥ん‥」
「俺お前に話したいこといっぱいあるんだよ。聞いて?」
「聞く。聞く、っから…フェリっ…‥」
耳の奥で木霊する声が俺を甘く煽ってどうしようもない。
そう、この声が悪いのだ。この声が。
近くであろうと何であろうと俺に響いてくるこの声が、調べが。
「うん。じゃあ俺、隣に座るね」
「コーヒーでも淹れてくるから少し待ってろ…」
俺をあらぬ方向へと駆り立てる要因だなんて、口が裂けても言えない。
その声に包まれるのが怖くて、わざと本を開くなんてことも勿論。
2009 @ろんじん
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