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寂一夜
「・・・では、署までご同行願います。」
そんなお決まりの台詞とともに、事件の幕が下ろされる。
項垂れ、手を引かれるままに歩き出す男の手には、冷たい銀色の輪。
実際の重さ以上に、重そうに見える。
「・・・工藤君、ありがとう!」
おかげで今回も無事に事件が解決したよ。
そう言って新一に笑いかける、人のいい、まだ若い刑事を、新一は嫌いではなかった。
「・・・いえ。お役に立ててよかったです。」
だから、彼の明るさに上手く答えられなかったのは、決してその刑事のせいではないのだ。
送るという言葉に、首を振る。
できるだけ明るく、明確な態度を心がけて。
寄りたい場所があるので電車で帰りますと告げ、事件現場であった邸宅を出た。
途端にシャツの首元から入り込む、冷たい風。
乾いた空気の中、道端に落ちている枯葉が、やはり乾いた音を立てて吹き飛ばされていく。
知らず零れた溜息に、目の前が白く曇ったことで気づかされた。
空を見上げれば、夏よりはるかに数の増えた星座。
早いスピードで流れていく雲に、時折黒く覆われながら、瞬いている。
こんなとき、いつもなら、自宅にいるはずの蘭を思い出して自然と足が速まる。
だけど、今夜は蘭がいない。
毛利探偵事務所の方へ帰っているはずだった。
方向を定めずに吹く風に遊ばれる髪を、無造作に掻きあげて、新一は再び溜息を吐く。
歩く足取りは、ゆっくり、ゆっくりになっていく。
家に帰れば、きっと長い夜が待っているから。
朝が来て、蘭が帰宅して。
朝食が出来たと新一を起こしに来る頃。
新一は、ようやく眠れるのだろう。
そう、多分。
『またぁ!私に怒られないからって夜中まで本読んだんでしょ!?子供じゃないんだからね、新一。』
考えて、無意識にクスリと小さな笑みがこぼれた。
そう、多分こんなふう。
両手を腰に当てて、ちょっと胸を張って。
布団にくるまり、ようやく訪れた眠気に半分ほど意識が飛んでいる新一を見て。
かわいらしく頬を膨らませて、怒るに違いない。
それでも新一が布団から出なければ、きっと呆れた顔をして溜息を吐いて。
なんだかんだ言いつつ、布団を掛けなおしてくれたりするんだろうな、・・・と。
そんなふうに予想する自分は、うぬぼれているだろうか。
考えながら、新一は歩く。
人影のない住宅街。
塀と塀に挟まれた細い道を、スポットライトのように、ぽつり、ぽつりと立っている外灯が照らしている。
新一は、その外灯の下を幾つかくぐると、自宅までの一番の回り道へと、角を曲がった。
~fin~
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