Thanks For Clap お礼SS スティレオVer
一人の夜
誰もが眠りの中にいる時間。なにがあったわけでもなく、ふと目が覚めた。
遮光カーテンのひかれた室内は薄暗く、未だ半分眠ったままの状態で何度か瞬きを繰り返す。そしてぼんやりと見え始めた視界の中、自分ではない誰かの気配が近くにあることに気付いて、スティーブンは静かに口元を緩めた。
誰の、なんてそんなことを考えるまでもなく、その存在がそこにいてくれることに安堵する。そしてそれに安堵する自分に、自然と笑みが漏れた。
もしこれが他の誰かであったのなら、こんな風に呑気に寝てはいられなかっただろう。眠りに落ちているフリぐらいはするかもしれないが、ずっと神経は尖らせたまま、その場を立ち去る瞬間を待っているに違いない。
誰かの隣でただ眠るなんてことはあり得なかった。そういう行為を伴う場合であれば誰かとベッドを共にすることもあったが、ただ身体を寄せ合い眠るなんて、そんなことをしたことも、したいと思ったこともない。
それが今日の自分はどうだ、なんとしても今日中に帰るというのを押しとどめて、半ば強引にベッドに引きづり込み、何をするでもなく眠りについた。一緒に眠りたいと思った。それだけでいいと思ったのだ。
「んが……っ……ん……」
腕の中にいる恋人がなにやら声をあげる。もぐもぐと口を動かしているところを見ると、もしかしたら夢の中で何かを食べているのかもしれない。
起きているときも変わらない糸目はそのままに、ぽかりと口を開けて寝息を立てる。普段から自由なヘアスタイルはさらに自由になって、きっと起きたときには見事な寝癖が出来上がっていることだろうと思った。
(見れば見るほど、普通の子なんだけどな)
頭の上に伸ばしている手をシーツの中に戻してあげて、ぎゅっとその小柄な身体を抱きしめる。途端にちょっと眉間にシワが寄るあたりが可愛くないと思う反面、だからこそ好きなんだろうと思うのだから困ったものだ。
眉間に寄ったシワに唇を寄せ、ちゅっと小さく音を立ててキスをすれば「んぁ……」と小さく声が漏れる。それでも起きないあたりが流石とでもいうべきだろうか。
そっと抱きしめる腕に力を込めて、静かに目を閉じれば自然とまた眠気が降りてきた。
誰かの体温を感じながら眠るのが心地いいことなんて忘れていた。それなのに腕の中にいる自分よりも随分と高い体温が、こんなにも安心をくれることを知ってしまえば、もう戻れなくなる。
「……困ったものだよ、本当に」
一人で眠るのが当たり前だった。それが、いつのまにか物足りない夜になっていた。そしてそんな変化を受け入れている自分に驚かずにはいられない。
「……んん、すてぃーぶんさん……? どうかしました?」
「ん? なんでもないよ」
「んぅ? そっすか、じゃあ寝ましょ?」
「あぁ」
うっすらと青い瞳をのぞかせたレオナルドが、へにゃりと笑ってスティーブンに手を伸ばす。背中に回った手からも体温が伝わってきて、スティーブンは先に再び眠についたレオナルドを追うように目を閉じた。
きっともう一人の夜を望むことはない。
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