苔珊瑚(DIO)







「ねぇDIO様」
「なんだ」
「吸血鬼って楽しい?」
「何を言い出すのかと思えば…」
それで会話は終了した。
彼にしては珍しく、明確な答えを出さない。

答えを躱されてしまったようだ。


強靭な肉体と人を超越した身体能力と回復力。
夜を従え、悪を従え、美女をはべらせ、こんなお屋敷に住んで。
そうして世界を支配しようなどと途方もないことを考えている吸血鬼、それが目の前の男だ。

でもそれらすべて、
「本当に欲しかったものなの?」
「何が言いたい」
「地位もお金も権力も吸血鬼の能力も、本当に欲しかったものなの?」
「そうだ、と言ったらどうする?」
「その割につまらない顔をしてるなって」
「そんなにつまらなさそうか?」
「うん」
「…ならお前が愉しませてくれればいい」
彼は不機嫌そうに眉をしかめた後、急に妖艶な笑みを浮かべた。
まるで獲物を見つけた獣のようだ。
闇の中でなおも神々しく輝く金髪からか、本人の気位の高さからか。
百獣の王、ライオンのようだ。

そう冷静に考えていると、あることに気づく。
ん、あれ…、この場合その獲物というのはもしかして。

この展開は不味い。

慌てて目の前の吸血鬼から距離をとった、筈なのに。
ああそうだこの男は。
「何処へ行くんだ?」
何故か背後に居やがるわけだ。

「私を愉しませてくれるのだろう…?」
「同意した覚えがありません!」

何が気に障ったのだろうか。
いつもより強引に寝所に押し倒される。
どうしたんだ、この人。

「随分と余裕ないですね…ッ」
「お前がそうさせているんだろう?」
なんて殺し文句だ。

耳元で囁かれたテノールに、私は全てを委ねることにした。




コケサンゴ そっとしておいて



















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