calling


遠くで 自分を呼ぶ 声が する

誰が何のために自分を呼ぶのかエミヤには判らない。
第一、この世界には自分しか居ない筈だ。
自分以外の声がする筈など無いのに。
それでも声はまるで遠雷の様に耳に届く。
聞き覚えは無い筈なのに、やけに聞き慣れた気のする声音。
何処で聞いたのか、何時聞いたのか、そもそもその声の持ち主と自分は知り合いなのか、
それすらも思い出せない。

なのに如何して、この声は胸に響くのだろうか。

ちりり、と痛む左胸をエミヤは無意識の内に押さえていた。
得体の知れない痛みは不快でしかないけれど、不思議とその痛みにも微かな覚えがある。
その痛みが生前に経験したものなのか死んで守護者に成り果てた後のものなのか、
そこまで思い出すことは最早出来ないが、自分を呼ぶ声と何かしら関係あったのだろうとエミヤは推測した。
推測したところで確認する術は無いのだが。

「もし君に会う事が出来たら、この左胸が痛む理由も聞き覚えが無い声を懐かしく思う訳も教えてくれるのだろうか」

左胸をぎゅっと押さえながら誰とも知れぬ声の持ち主に向かってエミヤは問いかけるが、勿論答えは返ってこない。

声はただ、愛しそうな声音で彼の名を呼ぶだけだった






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