雨の音は、何かに似ている。 そう、彼女は言った。 その言葉に俺は首を傾げた。 ――何に、似ているって? そう聞くと、彼女は笑った。 ――そうね、泣き声かしら。 また変わったことを言うなと俺は思った。 俺は雨が嫌いだった。恐らく、彼女もそうだ。 雨になるといつもつまらなそうに肘をついて窓の外を眺めていた。 ――あれはね、天使の梯子。 彼女は空に指の先を向けて、俺に言った。 雲と雲の隙間から太陽の光が漏れていた。 俺には、あれを「天使」と関連づける意味がわからなかった。 「梯子」の方は理解出来た。 子供なら、あれを伝って天に登ると考えそうだからだ。 あの梯子は掴めない。 天使など、いない。 俺はもう子供ではないから、あの光が嫌いだった。 いや、好きだったのかもしれない。 だから、「天使の梯子」だなんて陳腐な名前が嫌いなのだろう。 だけど、恐らく、 ――私、あの空が大好きよ。 俺は、あの光を愛する彼女が、 好きだった。 |
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