女を喜ばせるのはオレの楽しみの一つ。
 ましてや相手がお前ならなおさら・・・・・・ね?






 私はその日、ヒノエくん待ちの為に新宮に身を寄せていた。


「っ、間に合った・・・・・・!」


 数日邸をあけていたヒノエくんが帰ってきたのは夜半過ぎだった。
 それなのに、こんなことを言い出したのだから驚いてしまう。


「ま、間に合ったって、何が?」


 もしかしてお夕飯?
 でもそんなのとっくに終わってるし、ヒノエくんだって食べてないわけないし・・・???
 
 クエスチョンマークが乱舞する私の腕をつかんで、ヒノエくんが踵を返した。


「いいから急ぐよ。海に出る」
「え、えええっ?」
「ほら、間に合わなくなるよ」


 間に合わない―――――何に?
 わけのわからない言葉にクエスチョンマークが増加する。
 でも、ヒノエくんは足を止めてくれない。


「と、殿っ?」
「ヒノエ様!?」


 ほら、驚いたのは私だけではないのに、一切の説明を省いてヒノエくんは邸を出て浜辺へと走り出してしまう。
 私は転びそうになるのを何とかこらえて、ヒノエくんにひっぱられるまま後に続いた。











 舟に乗って、少し。
 波が落ち着いてきて、手を放せるくらいになった頃、私はびくびく聞いてみた。
 


「ひ、ヒノエくん、それで何?どうしたの?」
「ふふ、上を見てごらん?」
「う、上?・・・・・・・・・・・わあっ・・・!」
 

 浜辺につくと、小舟が待ち構えていた。
 説明もなしに海へ本当にヒノエくんは出てしまって、何が何やらわからない状態で見上げたのは満天の星空だった。


 星・星・星。
 星がいっぱい、月はなくて、だからこそ降るような星空が空いっぱいに広がっている。
 それは、ちょっと強行軍だった外出の苦労も帳消しになるくらいで。


「すごいね、ヒノエくん!」
「気に入った?」
「うん!」


 よかった、と言って笑うヒノエくんの顔はいつも通りで、私はちょっと胸をなでおろす。
 急に、船に乗ろうなんて、何かと思った。
 間に合わないとか、言って・・・・・・。



「あ、これを見せたかった、ってこと?」
「ん?」
「間に合わないって、星空が移り変わっちゃうから?」


 
 帰りの船でこの空を見て、私に見せたいって思ってくれたとか?
 ・・・・・・だったら何だか、嬉しいな。
 一人の時でも、少しでも私を思い出してくれたのなら。

 そう思ったのに、ヒノエくんは首を横に振る。



「違うよ」
「ええ?じゃあ何が間に合わない、なの?」



 ちょっと・・・・・・かなり残念・・・・・・・かも。
 こっそり拗ねかけた私の目の前に、綺麗な花が差し出された。



「ひ、ヒノエくん?」



 どこにそんなの持ってたの?
 目を丸くした私の前で、にっこりとヒノエくんが微笑んだ。




「誕生日おめでとう、望美」 
「え・・・」
「今日はお前の誕生日だろ?祝いたいのに仕事で、間に合わないかと思って、焦った」



 ぼやくヒノエくん。
 私は・・・・・・・・・胸を詰まらせてしまって、何も言えなくなってしまった。



「知ってた、の?」



 この世界に―――――この時代に、誕生日という概念はない。
 教えたこともない。風習も、自分の誕生日だって。


 なのに―――――知ってたの?
 覚えててくれたの?



 どうしてそんなに、好きでいてくれるの?





「もちろん。――――女を喜ばせるのがオレの生きがいだからね。相手がお前なら、なおさらだろ?」
「ば、ばかっ」



 涙が浮いた。
 それを隠すためにヒノエくんの胸に突撃した。

 ヒノエくんは簡単に言うけど――――今回の仕事がどんなに面倒で難しいのか、烏からの報告で、私は知ってる。
 本当はもう数日は、いないはずだったことも。


 抱きついた衣装には砂埃。
 ヒノエが強行軍で帰ってきたのは、言われなくたってわかってしまう。



「ばか?そこは素直に、ありがとうと言って欲しいな」
「ばかで正解だよ!ヒノエくん、忙しかったはずなのに・・・!そばにいさせてくれるだけで、私は十分なのに・・・!」



 気遣いは嬉しくて、愛されてるのは幸せで。
 でも、私はまだそれをうまく返せないのに、もらってばかりいるのがつらくて。


(ばか・・・!急いで帰らないで、休んでくれた方がいいのに!)


 悔しくて、嬉しくて、申し訳なくて、なかなか私は顔をあげられないでいた。
 そこに、星のように、声が降る。



「―――――足りないよ、望美」


 優しい声。
 甘い、優しい、ヒノエくんの、私だけの。



「全然足りない。そばにいるだけで満足されちゃ、オレの尽くし甲斐がないだろ?」
「っ、尽くし甲斐なんて・・・」



 反論はキスで封じ込められる。
 間近に心底嬉しそうな紅の瞳があって、息が詰まった。


 好き、すき、大好き。

 
 気持ちがあふれて、空の彼方に広がっていきそう。




「誕生日、おめでとう、望美」
「・・・・・・・・・・・ありがとう、ヒノエくん」




 もう一度祝われて、触れられる。
 優しい指先に身をゆだねながら、大好きの代わりに、私は小さくつぶやき返した。



 このまま夜が明けちゃうのも、覚悟しながら。 




―――――――――――――――――――――――――――――――――




 意地になっても、怒ってしまっても、受け止めてくれそうなヒノエくん。
 嫉妬ばかりもなんなので、たまには余裕なヒノエくんでした。



 



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