SSにはなりきれない短編
●ヴィータとイデアの仲が悪いのは
話し合いが終わり、俺となのはは八神家を後にすることになった。
そのため、話し合いの条件としてあちらに預けることになっていたデバイスたちも返してもらう。
シャマルの手からレイジングハートがなのはに、イデアが俺へと渡される。こうして武器ともいえるデバイスを渡してくれるのも、向こうがこちらを信じる気になってくれた証左といえるだろう。
「おかえり、レイジングハート」
≪I’m back , master≫
なのはは早速レイハさんと会話を始めたようだ。
というわけで、こっちも……。
「おひさー、イデア」
≪まあ、せいぜい二時間程度の間でしたけどね≫
特に互いに思うところもなく、普通に再会。そんなもんだよね。
そうして受け取ったデバイスを首からかけ、定位置に収める。レイジングハートもイデアもペンダントトップがデバイスになっているから、いわゆる胸元がいつもの場所だった。
≪二時間ぶりのマスターの温もりが心地よいです≫
「……気持ち悪いこと言うなよ、おい」
≪私の愛を気持ち悪いなんて。酷いですさすがマスターひどい≫
「そうだよ、クロノくん。イデアが可哀想だよ」
「なんでなのはからも責められてるんだ……」
≪なのはさんは優しいですね。マスターはそんなだから童貞なんですよ≫
「ハイスラでボコるぞてめぇ!」
残念ながらクロノとして童貞なのは事実なので、童貞ちゃうわとは言えない俺だった。
「どうてい?」
「どうていってなんや?」
そして“どうてい”なる言葉を初めて聞いたらしいなのはとはやては、可愛らしく小首をかしげて不思議そうな顔になるのだった。
いつまでもそんなふうに純粋なままでいて欲しいものだ。
そしてはやてに「どうていって何なん?」と尋ねられた騎士たちは、大慌てだ。主の疑問に対する答えを知っているものの、言うわけにはいかないという従者の葛藤。何とかシグナムとシャマルが、なのはとはやての二人に知らなくてもいいことだと説得していた。
そしてその間にヴィータがこっちに文句を言いに来た。見た目幼女とはいえ、ヴィータは長い時を生きている。当然、その手の知識もあるのだった。
「おい、はやてに変なこと吹き込むなよ!」
怒り心頭のヴィータに、謝るしかできない俺である。
「いやすまん、悪かった。コイツも最近変な知識ばっかり増えてきてなぁ」
「ったく……んな言葉が出てくるなんて、どんな変態デバイスだよ」
ぶちぶちと言いつつ、俺が謝ったからか怒りは萎み始めたようだ。まぁ、俺が言ったわけでもなく、デバイスが言ったことに怒るのも大人気ないと思ったのだろう。
と、その時点で終わっておけば、今後の両者の関係も当たり障りないものだっただろう。
だがしかし、そこにイデアが反論したことでそんな関係は夢の向こうへと消え去ったのである。
≪誰が変態デバイスですか。失礼な幼女ですね≫
ぴくり、とヴィータの肩が動いた。
「……あたしはこう見えて、長い間を騎士として生きてんだ。幼女じゃねぇ!」
幼女呼ばわりはさすがに気に障ったらしいヴィータは、ムキになって否定してきた。
そして、それに対してもイデアは容赦ない。
≪ではババアですね。ロリババア≫
しかしその発言はまずかった。
シグナムとシャマルまでもがイデアの発言に米神の血管を震えさせたからである。
「ババア……」
「ですって……?」
はやての傍から離れ、ゆっくりとこちらに振り向く二人。実は気にしていたのかもしれないなぁ、とおどろおどろしい空気を感じつつ俺は考えるのだった。
しかしイデアは慌てず騒がない。
≪いえ、お二人は見目麗しくグラマーですので問題ありません。むしろその美しく瑞々しい見た目と知慮深さという奇跡の両立は芸術の域ですらあります≫
「む……そう言われると」
「悪い気はしない、わね?」
言いつつ、しっかり表情が緩んでいる二人だった。騎士とはいってもやはり女性。褒められて嬉しくないわけではないようだ。
しかし、その二人に入れてもらえなかったヴィータは怒りが収まらない。頭でお湯が沸かせそうなほどに顔も真っ赤だった。
「な、なんであたしだけ違うんだよ! あたしだっておんなじようなもんじゃねーか!」
≪お二人とは見た目的にも全然違います。つるぺったんじゃないですか貴女は≫
「――……ッ、も、もう許さねぇ! 表に出ろ! ボロボロの屑鉄にしてやる!」
≪いいでしょう。OTAKUを変態と侮辱したことを後悔させてあげます≫
「って、なに喧嘩腰になってるんだお前はー!」
何やらそのままヴィータとイデア(イデアはデバイスなので、必然的にそれを使う俺)で戦闘開始という感じになりつつあったので、俺は急いでなのはの手をとると挨拶もそこそこに八神家を後にした。
後ろから「待ちやがれ!」「落ち着けヴィータ」とザフィーラに抑えられているらしいヴィータの興奮した声が聞こえていたが、無視して歩を進める。
同時にはやてのまたなーという暢気な声も聞こえてきた。目を白黒させて手を引かれるままだったなのはも、その言葉にまたねと手を振り返す。
そうしてこの日の話し合いは幕を閉じたのだった。
このあと幾分気持ちも落ち着いて藤見町に入った時に、俺はなのはから相談を受けることになる。
しかし、その前はこんな何とも言えない感じだったのだ。
シリアス一辺倒な話し合いだったが、その終わりは実にこう……締まらない終わり方で終わったのだった。
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