どうしてあんなに簡単に口に出来るんだろうと、ずっと不思議だった。

                             まるで挨拶をするように。

                             天気が良いね、とか、今日は寒いね、とか。
                     
                             そんな他愛も無い、軽い口調で。

                             どうしてなんだろうと。




                             けどそれは、俺が知らなかったから。

                             美味しいね、とか、楽しいね、とか、そういう些細な感情と、当たり前の日常の中で、
 
                             呼吸をするように愛を伝えたい、そんな相手がいなかった、

                             俺が知らなかっただけ。





                             軽くなんてなくて。

                             ただ、空気のように自然で、音楽のように優しい言葉。





                             「好きだよ」

                             お前がそう口にするたびに、もどかしい気持ちになる。

                             俺もだよ、と返しても、何か足りない。

                             伝えきれない何かが、喉の奥に引っ掛かって小さな傷を作る。

                             そんな俺を見透かしたように、宥めるようなキスが降ってくる。

                             少しずつ、少しずつ、俺自身も知らないような本音を、甘い舌が引き出していく。
            


                             「センパイ?」

                             笑みを含んだ瞳に促されて、ようやく理性が身を潜め、本能が言葉を紡ぎだす。









                             それはまるで、溜息を吐くように。








                                                                   No.1 「I love you」






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