皆、大好き! 五年ぶりの大祭となった豊穣祭から一ヶ月あまり。 その日、リヒトルーチェ公爵家の小広間では数人の男女が集まり、何やら重要な会議が開かれていた。 「では確認、といきましょう。よろしいですね、殿下」 眼鏡を人差し指で持ち上げたリヒトルーチェ公爵アイヴァンは、真剣な面持ちで向かい側に座る王太子リュシオンを窺った。 「ああ。というか、今日は無礼講だ。俺のことは気にせずに進めろ」 リュシオンの気安い言葉に、何か粗相をしたら……と戦々恐々としていた者たちは小さく息をつく。それでもこの国の王太子を前に、完全に緊張が解けるはずもなかったのだが。 「ありがとうございます。では、まずアマリーからだな」 「はい、父様。わたしの担当、部屋の飾り付けに関しては完璧よ。あの子の好きな様々な色の薔薇で飾り付ける予定なの。ね、マーサ」 自慢げに胸をはったアマリーがそう話を振ると、公爵家の乳母マーサは、コクコクと無言でうなずいている。その様子に苦笑しつつ、公爵は次を促すように長男ジーンへと目を移した。 「花火の手配も済んでますよ。これについてはコンラッドが手を尽くしてくれたんだ」 「いえいえ、私はジーン様の指示に従っただけですので」 コンラッドがにこやかにそう言うと、続いてユアンが報告する。 「僕の担当、料理についてもバッチリだよ。皆はりきって準備してる。ね、セオリオ」 「は、はいっ」 緊張気味の料理長セオリオは、突然話しかけられ動転したかのように答えた。次にその横にいたフレイルが、セオリオとは対照的に落ち着いた様子で口を開く。 「室内管弦楽団の手配も済んでいる」 「あ、フレイルのお父さんの知り合いだっけ?」 「ライデール・フィルだ。満足してもらえると思う」 ユアンの言葉に答えるフレイルに、他の皆は目を丸くする。 ライデール・フィルハーモニーといえば、王都で最も有名な管弦楽団なのだ。自宅に呼びたいと思う貴族は多いものの、断られることも多い。 「すごい知り合いがいるんだね」 ジーンが感心したようにつぶやくと、フレイルは首を横に振り、淡々と告げる。 「コンサートマスターが父の友人というだけだ」 「なるほどね。何にせよライデール・フィルとは素晴らしいね」 「ああ。音楽も花火も完璧だな。あとは……」 ジーンの言葉を継いで公爵は目を細めると、続いてそれまで黙っていたカインを見る。それに気づいて今度はカインが口を開いた。 「僕はルーナに気づかれないように、来客の到着時間に散歩に連れ出せばいいんですね?」 「ああ、頼んだよカイン。あの子は変なところでカンが良いからな」 「そうですね」 クスリと笑ったカインに自身も笑い、公爵はリュシオンへと目を向ける。 「あとは……」 「俺だな」 公爵の言葉を継いで、リュシオンが言う。彼はテーブルに両肘をつくと、組んだ手の上に顎を乗せた。 「警備についても抜かりはない。腕の立つ奴を何人か用意した」 「ふふっ、完璧ね」 艶やかに微笑みながら、公爵夫人ミリエルが纏める。それに微笑みで応え、公爵は全員を見渡した。 「あとは当日を待つだけのようだな」 満足げな公爵のつぶやきに、その場にいた全員が大きくうなずいたのだった―― →2 |
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